第457回
「固定観念は株式投資の敵です」
株を買うと、
その後から下がるものだといわれますが
私が買った新日鐵株は
買った途端にスルスルと上がって行きました。
新日鐵鉄を買うきっかけをつくってくださった
邱さんと是川さんの読みは
鉄の生産設備が縮小されたところに、
にわかに需要が高まり、
鉄鋼製品が高騰するはずだから、
鉄鋼会社の株が買いということだったように記憶しています。
が、そのリクツが私の頭のなかには
スンナリ入っていきませんでした。
もともと自分がつとめている会社では、
長所より欠点が見えるものだと
邱さんは書いておられます。
「人間というものは、
自分がよく知っているものは、
ダメだと思いたがるんです。
欠点がわかっちゃうからですね。
自分の女房はダメで、
よその奥さんはよく見えてしまう。
ナポレオンも、彼の召使の目には
けっして天才には見えないものです。
そういう意味で、自分の勤めている会社は、
欠点のほうがよく目について、
いいところがわからない。」
(『株の原則』)
加えて、日本の鉄鋼業は
長期的に衰退傾向に入っているという観念があり、
少々一時的に景気がよくなっても
その傾向には変わりがないのではないか
という考えから抜けることができませんでした。
邱さんの論調も基本的には、
鉄鋼業は斜陽化に向かっているというものでしたが、
昭和62年の後半くらいからは
鉄鋼界に訪れた需給の変化に注目されるようになり
たとえば、当時連載していた『株が本命』でも
「君子豹変しなければ株で儲からず」
と題した文章を書いています。
実際、その後、新日鐵株は
1000円近くまで上がっていきましたから、
邱さんや是川さんの見方が、
正鵠を射ていたわけです。
しかし、私は「鉄鋼業は斜陽化に向かっている」
という観念にとらわれて、邱さんや是川さんのように
情勢の変化に耳を傾けることができませんでした。
だから新日鐵株を長く持ち続ける気持ちにはなれず、
株価が買値の350円を上回って400円台に乗ると
すぐに売ってしまいました。
邱さんは『金儲け 発想の原点』という本で
「固定観念は株式投資最大の敵」と書いていますが、
私は「固定観念」のとりこになっていましたから、
大きなチャンスをつかむことができませんでした。
|