第425回
「日本人は『世界の中の日本人』になる段階に入った」
さきに、
「上海を本拠にして、一旗あげようとしている」
青年のことを書きました。
念のため、私が書いた原稿を、
本人にも読んでもらいましたが
「『ずいぶん立派な人がいるんだな』と思って
読み進めるうちに、途中で、ここに書かれているのは
自分のことだということに気づき、思わず赤面してしまいました」
という返事をいただいて、笑いだしてしまいました。
この青年は周囲の人に冗談を飛ばし、
周りの人たちをしばしば、
楽しい気分にさせてくれましたが、
ただ、住み慣れた地を離れて、
異国の地で一勝負しようと考えているとのことで、
この話を聞くと、
なにか敬虔な気持ちにさせられます。
そいてこの青年の行動に接して、かつて邱さんが
『VOICE』誌に連載したエッセイをまとめ、
平成2年に『哲学が変わった〜物離れ・金離れ・日本人離れ』
と題して書いたまえがきの文章を思い出しました。
「戦後はじめてのきびしい経済環境におかれているので、
日本人は迷いに迷っているが、
日本人のおかれた環境は
アジアの他の国々の人々から見たら
羨ましい限りのものだし、
これから進むべき方向もはっきりしている。
そう思ったので、単行本にするにあたって、
『哲学が変わった!』というタイトルに改めて、
最終章でとりあげた『物離れ、金離れ、日本人離れ』を
サブタイトルにした。
バブルのあとの10年間に、
日本人はもはや物にとらわれなくなったし、
お金にもさして心を動かされないようになった。
もう一つは日本人であることにこだわらなくなることだが、
恐らくこれが一番の難題であろう。
しかし、日本人が日本人を誉めるのに
「あいつは日本人離れしている」というくらいだから、
もう一つスケールの大きな日本人であることは
この次の日本人の目標であると考えて
さしつかえないであろう。
10年の試練期を経て、
日本人は『世界の中の日本人』になる段階に入った
というのが私の認識である。」
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