第359回
「自分がいいと思ったことは自分で実験することにした」
高度成長期のころ、
邱さんは老後の経済対策についてアドバイスを求める人に、
「定期預金をとりくずして収入向き不動産に乗りかえる」ことを
すすめましたが邱さんのアドバイスを聞いた人が
素直にしたがって動いたわけではないようです。
「当てと銀行は向こうからはずれる」からの抜粋の続きです。
「私がそういうと、私のオフィスで、
私のペースで話しているから、大抵の人が、
『そうですね。ではそうしましょう』と、
その気になってくれる。
しかし、外へ出て冷たい風にあたると、
すぐにも気が変わるとみえて、
2、3日もすると、こんな電話をかけてくる。
『先日、私は先生のおっしゃる通りにすると言いましたが、
帰って銀行に相談に行きましたら、
支店長さんにマンションは
値上がりするかどうかわからないし、
それに家賃のとりっぱぐれということもあるし、
と反対されましてね。
やっぱり当分、見合わせることにしました』
『銀行の支店長さんに相談してはいけないと言ったでしょう』と、
私は思わず大きな声になった。
『銀行の支店長さんが反対しているのは、
あなたの定期が引き出されるのがいやだからですよ。
もし銀行の支店長さんが
そんなに先のことまでわかる人だったら、
うんとお金持ちになって
支店長なんかやっていませんよ』
そうは言っても、もう後の祭りである。
私はだんだん人にアドバイスするのが億劫になって
自分がいいと思ったことは自分で実験してみることにした。
新規の事業についても他人にすすめるより
自分で実験する方針に変えたので、気がついてみたら
傘下の会社が何十ということになってしまった。
そのなかには失敗して店仕舞をしたものもあるが、
なんとか生き残って、わずかだが、
きちんとお金を儲けてくれているものもある。
どの一社をとっても、銀行にいったら
反対されたであろうものばかりで、
それを手がけることができたのも、
もとはといえば銀行に相談に行かなかったからである」
(『立て直しの原則』平成7年)
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