第358回
「新規の事業は銀行の意見をきかないほうがいい」
「天は自ら助くるものを助く」という格言は
「他人に頼らず、自分自身で努力する者は
天が、助けてくれるという」といった意味です。
邱さんのエッセイに、この考えにふれたものが
ほかにもあったぞと思って、しばらく考えたら
『立て直しの原則』(平成7年)に掲載されていた
「当てと銀行は向こうからはずれる」
という作品が浮かんできました。
さっそく本をとりだして再読したら、
予想通り邱さんが、このエッセイで、
物事の判断は他人に頼らず自分で決めるのがいいと
述べておられることを確認しました。
この文章の一部を3回にわたって抜粋させていただきます。
「私は長いあいだの経験で、新しい試みをするときは、
お金を貸してもらう必要上、
何にお金を使うかを銀行に説明する必要はあるが、
その可否について銀行の意見を聞かないほうがいいと思っている。
銀行だけでなく、人間は誰でも、
新規の投資には不安感を抱くものである。
ましてや銀行はお金を貸す立場にあり、
いつもお金が焦げついたときの心配ばかりしているから、
ちょっとでも不安のあることには原則として反対する。
(略)もう30年も前のことだが、
その頃はどこの銀行も預金集めにとびまわっていた。
資金需要が旺盛で、お金さえ集めれば業績が上がったから、
支店が努力して集めた定期預金を取り崩されるのが
支店長としてはつらかった。
ところが、その時代は日本経済の高度成長期であり、
不動産も株も値上がりが激しく、
その分、お金のほうは目減りが激しかった。
私は自分の持っていたお金を二分して半分で株を買い、
半分で賃貸用の小さな店を一軒買う実験をしてみた。
3年もたたないうちに、株は少しばかり値上がりしたが、
不動産は3倍にも値上がりをした。
さらに何年かたつと、株が倍になっているあいだに、
不動産は10倍にも値上がりをした。
さらに何年かたつと、株が倍になっているあいだに、
不動産は10倍にもなってしまい、同じお金を投じて
こんなにも大きな差ができるものかと
私自身がびっくりさせられた。
そういう経験があったので、
『老後の安定のためにはどういう対策をしたらいいですか」
と人が相談にみえると、
『定期預金をおろして収入向き不動産に乗りかえなさい』
と私はしきりにすすめた」
(『立て直しの原則』平成7年)
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