第326回
「時間は足りないくらいがよい人生」
“お金と時間の関係”は
邱さんが開拓した分野の一つです。
最初の著作は『金とヒマの研究』で、
邱さんはこの本を人に贈る時、
『時間がある人はお金がない、
お金のある人は時間がない。
それでも時間もお金もない人よりはまし』
と添書きをしたそうです。
さて、お金と時間の関係は
どういう風になっているのが理想的なのか、
邱さんの意見をききましょう。
「世の中はままならぬものであって、
お金もあってなおかつ時間もたっぷりある人に
あうことは滅多にない。
お金があるようになると、
お金を目当てに次々と人が押しかけてきて、
こんな仕事をやらないか、あんな仕事をやらないか、
と話を持ち込んでくるから、いやでも忙しくなる。
また自分の方でもお金に効率的に稼いでもらおうとするから、
いつの間にかお金に使われてキリキリ舞いをしてしまう。
ではお金もたっぷりあって、
時間もたっぷりあるような生活が理想的かというと
必ずしもそうとは言えない。
お金とヒマと両方持っている人は、
自分でお金を稼いだことのない人に決まっている。
親から財産をもらったとか、
どこからかお金がころがりこんだという人は
金運には恵まれているかもしれないが、
理財の才能に恵まれているとは限らない。」
(『野心家の時間割』)
ところで、あるとき邱さんは人から
「日本人は働きすぎ。ヨーロッパの貴族は
午前中だけ出社して、午後は遊びに出かける」
というような話をきかされたそうですが、
ご自身の感想を次のように述べておられます。
「ヨーロッパの支配階級は
優雅な生活を送っているように見えるが
これは『古き良き時代』の話で、
技術革新がとどまることを知らず、
国際競争も激甚を極めている昨今、
そんなことをやっていたら、
たちまち左前になってしまう。
これに反して産業界に優位に立とうと努力している人々は
自分の事業のためにあらん限りのお金も注ぎ込む。
だからお金はいくらあっても足りないし、
時間もいくらあっても足りない。
しかし足りないづくしであっても、
そういう状態に身をおくことは、
心理的には充実した状態になるから、
むしろ満ち足りた人生ということができよう。」
(同上)
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