第309回
「今までの仕事の延長線とか隣ならまだいいのですが」
昨日は、50歳になった人が、邱さんのところにきて
「もう会社勤めがいやになったから、
独立して仕事をしたい。何かいい仕事はないか」
と相談する人に対して、
邱さんが語っていることを紹介しましたが
今日はその続きです。
相談を持ちかけている人が邱さんに
心の苦衷を伝えるところから話が始まります。
「『でも代わりばえのしない仕事で、
つくづく愛想がつきちゃったんですよ。』
『そういうお気持ちは私にもわかりますが、
職を変えたからといって、
そう代わりばえのする仕事が待っているわけでもありませんよ。
社長の手伝いをしてサラリーをもらうならまだよいのですが、
50歳になってからサラリーを払う側になると、
心配で夜も寝られなくなりますよ。
同じ仕事でも今までの仕事の延長線上とか
すぐお隣ならまだよいのですが、
今まで縁もゆかりもなかった分野だといよいよ難しいですね。』
『どうして縁もゆかりもない分野だとダメなんですか?
先生はシロウトのほうがいいと
かねてからおっしゃっているじゃありませんか?』
『確かにおっしゃる通りです。
でも、それはまだ頭が固くなっていない、
つぶしのきく年齢ということが前提になっているんです。
あなたは町へ出て、
若者たちが親から払い下げてもらったような
ダブダブのコートを着ているのを見て、
カッコいいなあとお思いですか?』
『あれは本当にみっともないないなあ』
『そうでしょう。自分の頭の中で
こりかたまってしまった常識で物を見るようになると、
もうつぶしがきかなくなるんですよ』
『ならば、延長線上とかお隣というのはどういうことですか?』
『ついこのあいだも、30歳くらいの男の方で、
ジーンズのメーカーに勤めていた人が、
新宿で小さな店を借りてジーンズのショップを開きたいが、
どうだろうと相談にみえました。
その人は年も若いし、メーカーに勤めていたのが販売に移る、
というだけのことですから、すぐ賛成しました。
小売と卸では多少、勝手が違いますが、
今まで扱っていた自社製品だけでなく、
他社のつくった売れ口商品を扱えばいいのですから、
そんなに難しいことではありません』
『じゃ、私はダメですか?』
『まあ、ダメでしょうね。
もう20年も前に思い立っていれば、
私も賛成したかもしれませんが、
その年齢になると今の仕事を貫くほうをおすすめします。』」
(『四十歳からでは遅すぎる』)
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