| 第295回「技術を持たないサラリーマンは人生の後半苦労する」
 私が邱さんの作品を読み始めた頃のことですが邱さんが『実業の日本』(昭和54年7月15日号)に
 「独立志すなら30代で準備を」
 と題した短い文章を発表しました。
 私はこの文章をノートにはりつけて、
 いまでも机の上においています。
 転職とか独立とかといったことが
 全く念頭になかった私にとって
 強い刺激を受けた文章だったからです。
 この文章で、邱さんは「独立するには25歳から35歳の間が最適の年齢、
 40歳になると、ラスト・チャンスで、
 50歳になると絶望的といえる」
 と持論を展開したあと、次のように書いています。
 「だから50歳になって、私のところにきて『もう会社勤めがいやになったから、
 独立して仕事をしたい。何かいい仕事はないか』
 と相談する人に対して、私は決まって次のように忠告している。
 『だいたいあなたが50歳まで会社に頑張っているということは、
 商売の才能がない、何よりの証拠だから、
 がまんのついでに定年までがまんして、
 退職金をもらったあとは、
 ユメユメ事業をしようなどとは思いなさんな』」
 「しかし、そうはいっても、50歳とか60歳になってあまり冒険的でなく、安全にのんびりした仕事をしたい、
 という希望をもった人がいるのも確かだ。
 そこで、そういう人たちに対するアドバイスだが、
 まず自分の趣味を生かした分野でやること、
 これが第一の条件だ。
 たとえば、書道の好きな人が子供たちに習字を教えるとか、
 本の好きな人なら本屋をやる、といった具合である。」
 「もう一つの方法は、サラリーマン時代と同じ仕事の延長線上で独立することだ。
 たとえば、機械のメーカーから退職した人なら、
 セールスエンジニアリングの道がある。
 あるいは化学繊維会社に勤めている人なら、
 シンガポールや香港、台湾あたりから
 『仕事をみてくれないか』といってくるケースが結構あり、
 そのときは何年間かの契約ででかけていけばいい。
 サラリーマン時代に技術が身についた人なら、
 安全なやり方が、このような形で
 あなたの身の回りに一つや二つはあるものだ。
 まずそれを探し出すことである。」
 「もっとも、総務などにいた人たちはその限りではないので困ってしまう。
 つまり、会社に“就職”でなく “就社” した人が、
 第二の人生を選択する場合、
 自分の技を生かす道に苦労するわけだ。
 一般のサラリーマンは、会社の組織の中で働いているだけで、
 一人で放り出されては何もできない、という人がいかに多いか。」
 (以上引用はすべて「独立志すなら30代で準備を」
 《『実業の日本』昭和54年7月15日号》)
 どこが一番刺激になったかといえば、引用した文章の一番最後の部分です。
 というのは私は「一人で放り出されては何もできない」
 と邱さんが指摘した総務とか労務とかの部署で
 仕事をしてきた人間で、当然のことながら、
 私はこの文章を読んでかなりの衝撃を受けたのです。
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