第286回
起業のきっかけは古い世界に新しい技術を活かすこと
新しい業を起こした人というと
「野心に燃える起業家」といった人をイメージしがちですが、
“スーパー源氏”という古書通信システムを開発し、
このシステムを運営する
“紫式部”という会社を経営する河野さんは
社長さんというより、
「ソフト会社の実務家肌の部長さん」
という感じの、穏やかな雰囲気の方でした。
私は河野さんが
事業を立ち上げた過程に興味がありましたので、
矢継ぎばやに質問しました。
戸田:「河野さんはもともとはどちらにお勤めだったのですか?」
河野:「リコーに勤めていました」
戸田:「コンピュータに関係した仕事をなさってたんですか?」
河野:「はい。戸田さんの勤めておられた
新日鉄のコンピュータ・ソフトの開発会社にも
出入りしていました」
戸田:「リコーといえば、創業者の市村清さんは、
邱さんとも親交のあった人ですが、
新しいビジネスをたくさんうみ出し
“起業の神様”と言われた人でしたね」
河野:「そうですねえ。ただ、ボクの場合は、
会社を起こして経営者になるというということは
全く考えていなかったのです。
定年までサラリーマン生活を続けていくつもりでした」
戸田:「どういうきっかけで古本を売るシステムを
開発されるようになったのですか?」
河野:「たまたまボクは『横浜いのちの電話』
というボランティア活動に参加していました。
そのとき、私と同じように
このボランティア活動に参加していた人がいて、
自分の家が古本屋さんで、
インターネットで古書や古本を販売できないか
という相談を受けたのです。」
戸田:「開発はどういう具合にすすめられたんですか?」
河野:「会社で仕事をし終えて家に帰り、
それから取り組みました。
帰宅してからの取り組みですから、気がついたら
夜中の2時になっていたといったことはザラでした。
途中、開発に熱が入って、会社の仕事との並行作業で、
身体を壊したこともあるんです。」
戸田:「たいへんでしたね。で、開発したシステムを使っての
本通販にたいして、お客さんの反応はどうでしたか?」
河野:「開発にとりかかった頃は、
インターネットで物を買うという機運になっていなくて、
お客さんの反応はサッパリでした。
ただ、数は少ないのですが、夜中にふと気がつくと
海の向こうから注文が入ってきたりして興奮しました」
淡々と説明してくださる河野さんの目が一瞬、
キラリと光りました。
|