第236回
「倒産してからやることを倒産する前にやるのがいい」
邱さんが『まだやってんの』(平成11年)の中で
土建業の3人の社長さんたちが
集団自殺した事件を取り上げた文章の引用を続けます。
倒産を回避するためにはどういうことに
気を配ったらいいのかについて
邱さんのアドバイスが書かれています。
「大競争の時代には必ず勝者と敗者が出る。
敗者は倒産する前に競争から下りるか、
倒産してやめるかのどちらかである。
昔の戦争なら斃れてのちやむ、
ということがあってもおかしくないが、
商売の世界は倒産しても誰も褒めてはくれない。
もちろん、倒産してもそれで死んでしまうわけではない。
会社が倒産しても、
本人がもう一度やりなおすチャンスはいくらでもある。
倒産のやり方がきれいさっぱりしていて、
周囲の人々を感心させられるような人であれば、
友人が喜んで手をさしのべてくれる。
現にそういう人たちを私は何人も見ている。
倒産してから再起をはかるより、
倒産を回避する方が傷が浅く、
再起がしやすいことも事実である。
倒産を回避しようと思えば、
倒産してからやることを
倒産する前に思い切ってやればよい。
たとえば、倒産したら
全財産を失ってしまうことはまず間違いない。
ならば、財産が半分に減っても無一文に近い状態になっても、
払うべきものは払い、
整理すべきものは整理してしまった方がいい。
倒産してから処分したのでは足元を見られて
財産価値のあるものでも二束三文に買い叩かれてしまう。
それくらいなら多少でも値打ちのあるうちに
渡すべきものは渡してしまった方がいいのである。
私はもう駄目だと思った者は、早くあきらめる主義である。
殊に昨今のように社会全体に構造変化が起こって、
物品販売業や土建業が斜陽化している時は、
今日は他人の身と思っていたことが
明日は我が身にふりかかってくる。
自分だけは神に助けられて倒産は免れられる筈だなどと
のんきなことは考えたりしない。
むしろどこまで堕ちるのか、
地獄のどん底に落ちた時のことまでつい考えてしまう。
しかし、それでも集団自殺する経営者の仲間には加わりたくない。
先ずいくらピンチに追い込まれても、
お金にはそのために生命を捨てるだけの値打ちがあるとは
思えないからである。
そして、もう一つ、これは人生を生きる上で重要なことだが、
人は最悪の状態を覚悟してことに当たったら、
実際にはそこに至らないどこかの時点で
生命拾いすることが多いからである。」
(『まだやってんの』平成11年)
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