第235回
「本人が自殺しても倒産することは同じです」
現代におけるリスクの第一として邱さんが上げたのは
会社の倒産です。
大不況がつづき、会社の倒産も増えてきました。
今から4年前のことですが、会社経営者3人が
ホテルで同時に首つり自殺をする事件がありました。
邱さんは『まだやってんの』(平成11年)のなかで
この事件をとりあげ、感想を述べています。
「最近は土壇場まで追いつめられて自殺を選ぶ人が増えてきた。
つい最近もゼネコンの下請けをやっている土建屋の社長が
3人で集団自殺(といっても別々の部屋でお互いに合意の上で)
に及んだというニュースが報道されたが、
失業者や生活困窮者でなくて、
れっきとした経営者の集団自殺というところに
いまの大不況時代のユニークさが見られる。
切羽つまるのは大企業の雇われ社長でもなければ
会社からおっぽり出された失業者でもなく、
経営にいき詰まったオーナー経営者なのである。
それも土建屋だったということは
従業員が700万人といわれる日本最大業界で
どんなことが起こっているかを
暗黙のうちにあばいてみせてくれたようなものである。
(中略)
客観情勢はどうかというと、
ゼネコン業界は盛りをすぎて斜陽化する方向にあって、
近い将来に回復する見込みはない、
どうしても半分は整理される。
自分の会社は生き残る自信はあるが、
生き残っても従業員をかなり大量に整理をしなければならないし、
整理をしたあとも皆を養っていけるか自信がない、
こんな仕事ははたして子供につがせる値打ちがあるのか。
自分一代は仕方がないとしても、
これだけ苦労してこのていたらくでは、
いっそこのへんで思い切って結末をつけたらどうだろうか。
そういう心境になってこの際、足を洗うことを決意し、
またそれを実行に移すことのできる人はまだ余裕のある人である。
死ぬところまで追う詰められる人はもっと切羽詰って
死ぬこと以外に考えられなくなった人である。
何をおそれて死を選ぶのかと言えば、
商売に行き詰って倒産することをおそれて死を選ぶのである。
では死ねば倒産しないですむかといえば、
本人が死んでも倒産することは同じである。
死ねば本人がそれに直面しないですむというだけのことである」
(『まだやってんの』平成11年)
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