第232回
「失敗しても致命傷に至らない対策はある」
「失敗を恐れるな」とおっしゃる邱さんですが、
もちろん失敗の連続ばかりでは
二度と立ち上がれなくなってしまいます。
邱さんは「石橋は怖がる前に渡ってしまえ」
と題したエッセイのなかで、
「失敗しても致命傷に至らない対策」として
自分が開発した経営ノウハウを開陳しています。
「仕事に絶対失敗しない方法があるだろうか。
もちろん、ある。
仕事をしなければ失敗することはない。
石橋を叩いても渡らなければ、橋から落ちる心配はない。
しかし、失敗して後悔する方が
何もやらないで失敗もしないよりもましだと考えている以上
失敗しても致命傷に至らず、
再起の余力を残すことができないものだろうかとまた考える。
そのために、第一に考えるべきことは、
引き返すラインを予めきめておくことであろう。
人は自分の動かせる資金の範囲内でしか仕事はできない。
その資金の中には自己資金もあれば、
親戚知人から調達した資金もある。
そのほかに銀行から借りる資金もある。
自分の動かせる資金の範囲でやりくりができ、
ピンチを乗り切り、業績を好転させることができれば、
企業は一応は軌道に乗る。
しかし、事業経営には不測の要素が多く、
不成功に終る場合も多い。
殊に不動産以外の設備や商品に投資をする場合は、
たとえば工場の機械設備などは事業がうまくいかなかった時は
スクラップ同然になってしまう。
そういう時に銀行に借金が残っていると、
にっちもさっちもいかなくなってしまう。
だから私は将来、なくなってしまうおそれのある事業への投資は
すべて自己資金でやることにしている。
自分一人でやる時はもちろん、すべて自分の手金でやるが、
共同出資をする場合も、共同出資する人たちに
その覚悟をしてもらう。
そのお金がゼロになるまで頑張っても、
なお一向に目鼻がつかない時が、辞める潮時だと考える。
第二の原則として自分たちの仕事場になるところの不動産は
自分たちで持つ。
店なら店を買うし、工場なら、工場の敷地から建物を購入する。
それに要する資金は最初から資金で賄い、
それ以外の運転資金は銀行から借りる。(略)
(「石橋は怖がる前に渡ってしまえ」『金儲け発想の原点』)
邱さんは、これに続く文章で
この原則を守って、不動産を買い、
仕事をやったこともあれば、
この原則を無視してやったこともあったとふりかえっています。
そして、仕事の結果が思わしくなく、廃業に追い込まれた時、
前者の場合は、不動産が値上がりして損失をカバーした上に、
現金で資本金ていどのお金が戻ってきたことがしばしばあった、
他方、場所を買わずに場所を借りてはじめた事業が
うまくいかず、廃業に追い込まれた時は
「『惨め』の一語に尽きる」(同上)と書いています。
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