第231回
「自分からは手形を振り出さない」
邱さんが人生、うまくいかないこともありうるぞと自戒し
手がけたことが命とりにならないように
用意周到な対策を講じる人だという見方がうまれると、
いくつか思い当たることが浮かんできます。
邱さんはいろんな事業を展開されていますが、
あるとき「手形で商売することにはうんざりした」
と考えたと書いています。
「手形を切る時は誰でも、このくらいの金額は、
入ってくる金で充分、賄うことができると思っている。
かりに何らかの事故があって、
入るべき金が入らなくなっても、
そのくらいの金額なら何とか埋め合わせがきくだろう、
とたかをくくっている。
しかし、いったん手形を切る習慣がつくと、
取引が増えるにしたがって、
手形は天文学的数字で膨れ上がって行く」
(『朝は夜より賢い』)
そこで邱さんはあるとき、
自分から手形を出すことはしないと決めました。
「私は、あれこれ考えた末に、
受取手形はありがたく頂戴するよりほかないが、
自分で手形を振り出すのはやめようと思い、
それを実行に移しました。
払うべきお金は、3ヵ月後に払うか、4ヵ月後に払うか、
それともいま払うかというちがいはあるにしろ、
いずれ払わなきゃならないのだから、
それならいっそいま払ってしまえ。
足りなかったら、銀行で借りればいい。
受取手形のほうは、落ちるまで手持ちにして
がまんしようということで、ずっとやりくりしてきたのです。
こうしておけば、いざ、この商売はダメだからやめよう
というときにすぐにも撤退できる。
儲かりもしない商売でもやめるにやめられないのは、
自分が振り出した手形を落とさなければならないからです。
私のように支払いを全部現金ですませれば、
たとえ借金があったとしても、
銀行の借入金が残っているだけで未払いはない。
未収金で足りなくて、銀行からの借入金を返済できない場合は
担保にして土地や建物を処分すれば、何とかなります。
支払手形で悩まないですませたかったら、
手形そのものを振り出さないことです。」
(『商売入門』)
この考えなども心配のタネになることは
前もって摘みとっておこうという
邱さんの一面を浮き彫りにしているのではないでしょうか。
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