| 第228回「“夫婦同時死亡時マニュアル”は面白がられます」
 どんなささいなことでも、ちょっと気になると、ずっとそのことが頭を離れないといったことがあります。
 夫婦で一緒に旅行にでたとき、
 何かのトラブルに巻き込まれて
 私と妻が同じタイミングで命を落とす場面が
 ありえないことではない、と思い
 そのときの対処策について考え、
 その結果を子供たちに伝えて、旅に出かけました。
 結果は、その分だけ旅行をより楽しむことができ、気になることが起こったら、何らかの手を打っておくと、
 スッキリしたき気分になって、
 肝心なことに集中できるということがわかりました。
 このささやかな体験を人に話すと結構楽しまれます。私はマネージャーとして活躍している人たちに
 将来起こりうる不安な材料に対して
 どう対処していったらいいかといったことを話すことがあります。
 そういう時、レクチャーの合間にこの話をはさむと、
 話をきいている人は面白がってきいてくれます。
 俺たちにも将来、夫婦で海外旅行を楽しめるときがくるかもしれないぞと
 楽しい気持ちにさせる要素があるし、
 片方ではふだんタブーにしていることを
 表に出してとりあげた結末がどうなったか
 多少ハラハラさせる要素があるからかもしれません。
 そして私たち夫婦がさしてトラブルなく帰ってきて子供たちに、これからは親に対する孝行の度合いで、
 それぞれへの財産配分の内容を見直し、
 マニュアルをバージョン・アップするぞといった
 というとほぼ例外なく、皆笑い出します。
 それに味をしめて、私は大学時代から親しくしている二人の友人と夫人同伴で会食したとき、この話をしました。
 そうしたら、友人の奥さんが興味を示して
 私がつくったマニュアルのエッセンス部分を
 送ってほしいといわれました。
 発想だけを取りいれてもらえば、誰だってできるので、
 わざわざ送るということにはなりませんでしたが、
 私にマニュアルを送ってほしいとおっしゃった
 ご夫人の旦那さんは経済学部をトップで卒業し、
 「銀行の銀行」といわれる機関に入った人でした。
 そんな人の奥さんから、家庭経営のノウハウの一端の公開を求められ
 たいへん名誉なことですが、
 友人が「天下国家」の経済に心奪われているのに対し、
 私は「天下国家」の経済を論じないわけではないけれども、
 それ以上に一家の経営を重視する経済学者を
 師匠に選んだせいでしょう。
 そして、私のセンセイが人がふだん、敬して避けるような話を話題にし、それを深刻がることなく、
 むしろそれを楽しむことで
 新しい知恵が湧いてくることを
 教えてくれているからだと思います。
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