第220回
「まず損をしたときの計算を」
前にも探求したことですが、邱さんは、
「世の中はだんだん悪くなっていく」という悲観論者ではなく
「世の中はよくなる方向に向かっている」と考える楽観論者
と見受けられます。
が同時に「うまく行かなかった場合」のこと想定し
「いざとなった場合の覚悟はできているか」
「万が一のときの対策ができているか」と自分に言い聞かせ、
実際にそうなったときに
あわてないですむ対策をとってきていますね。
邱さんのこうした側面が書物の中で最初に見受けられるのは、
昭和43年に商売の手引書として書いた
『女の商売成功の秘密』という本ではないでしょうか。
この本には「まず損をしたときの計算を」と題した章があり、
その冒頭のところで邱さんは書いています。
「ミニマックスの理論というのをご存知ですか。
もちろん、おわかりない人が多いと思います。
私だってIBMのことを書いた本を読むまでは、
そんなむずかしいコトバがあることさえ
知らなかったのですから・・・・・・。
さて、えらそうなリクツをこねまわしていても
役に立ちませんから、要点だけ申しますと、
IBMという会社が今日の大をなしたのは、
ミニマックスの理論を応用したからだというのです。
ミニマックスの理論とは、
企業が新しい計画を実行に移すときに、
これだけの投資をしてこれだけの売上げをすれば、
これだけの収益をあげることができる、
といったプランでなくて、もしうまくいかなかったら、
どれだけの損になるかと計算して
事業をすすめるやり方だそうです。
何でもIBMはこの方式を徹底的に実行したので、
結果的に損をせずに、今日のような世界的なスケールの
大企業に成長したとのことです。
アメリカにはボックスの理論というのもあります。
これは株式投資をするときに、
自分の買値から一割なら一割といった上下幅をきめておいて、
一割上がったら、必ず売り、
逆に一割さがっても必ず売るときめておくのです。
なぜこんなことをするかというと、
株をおやりになった方なら身に覚えがあると思いますが、
自分の持株がさがりはじめると、
なかなか見切りがつかなくなって、
ついにズルズルと深間にひきずり込まれがちだからです。
その点、損が一割になったら、
感情をまじえずに自動的に売却することにしておけば、
1割以上損をすることはないわけです。
もっとも上げ幅も1割では大したもうけがないと考える人は、
上値の幅を2割にしても3割にしてもかまいません。
ただ2割とか3割上がるのを待つには時間がかかりますから、
銘柄をかえて回転を早くしようというのがボックスの理論です。
ミニマックスの理論もボックスの理論も
商売とか株式投資とか損をする危険をはらんだ投資に対して
損を最小に食い止めるために考え出されたものなのです。
そしてこの考え方は私たちの小さな商売に対しても、
そのままあてはまるものなのです。」
(『女の商売成功の秘密』)
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