| 第219回「零落したときの準備を怠るな」
 日本人はうまく行かなかった場合のことを口にすることを避けます。
 そんなことを口にしたら、口にしたことが
 実際に起こってしまうと心配するのです。
 そこで、うまく行かないおそれがあっても
 それついて考えることを意識的に避けてしまいます。
 しかし、邱さんはそんなことはまったく頓着しません。
 「親の倒産」とか「親の死」とか普通、
 人がタブー視することを、“食卓の話題”にして
 3人のお子さんたちを育てたのです。
 このことは『生き方の原則』の中にも書かかれています。
 「我が家はみな楽天家で、基本的には世の中はよくなる方向に向かっていると
 信じていますが、自分が何かの風の吹き回しで、
 零落したり、破産したり、あるいは死に見舞われたりすることは
 あり得ると常々考えています。
 ですから、お金を使わずに貯め込んで、
 そのまま零落したら、
 食べる物も食べずに終ってしまう心配がある、と思って、
 割合にお金は使うようにしています。
 とりわけ食事には贅沢で、食卓の上はいつも並べきれないくらい料理が並びます。
 子どものときからそういう生活になれると、
 充ち足りた生活の有難味はなくなってしまうものですが、
 その代わり我が家では、ほとんど毎日のようにパパが死ぬ話と、
 パパが倒産する話をおかずにしてきました。
 もしパパが死んだら、この家は借金して買った家だから、銀行から借りたお金はお前たちが返さなければならない。
 もし返さなければ、この家から追い出されるから、お前たちは 家なき児になる、と言うと、
 子どもたちは動かしていた箸を思わず止める。
 『パパ、借金はあるの?』と聞くから、
 何千万円と答えると、子供たちのお小遣いに比べたら
 天文学的数字だから、
 『パパ、死ぬなら借金を返してから死んで』
 と子どもたちはしまいに懇願します。
 また、パパが倒産したら洗濯屋の二階に親子5人で住むんだ。そのためにも部屋を用意してあるから、
 みんなで一生懸命働きましょう、と。
 その頃はじめたコイン・オペのランドリーに
 よく子どもたちを連れていったものです。
 結局、洗濯屋の二階に住むようなことには
 一回もなりませんでしたが、いつもその覚悟はしていました。
 ある程度の収入があるようになったら、
 それに見合う生活はやりますが、
 それができなくなったら、
 生活のレベルをダウンしても平気でないといけないと、
 ずっと家族にも自分にも言いきかせてきました。」
 (『生き方の原則』)
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