| 第204回「世の中はこれでダメになるわけではない」
 『楽天家でなければ生きられない』の冒頭を飾る「楽天家に末世の思想はない」からの引用の続きです。
 「しかし、同じ貧しい環境に育っても、その逆境にめげずむしろそれをバネにして立身出世の道を歩み、
 功なり名を遂げて一生を終る人もある。
 同じ環境に育ちながら、こうした差が生じるのはなぜだろうか。
 もちろん人それぞれの能力の違いもあるし、
 勤労意欲ともかかわりがある。
 また運としかいいようのないその人のツキにも
 大きく左右される。
 しかし能力が発揮できるかどうかも、
 また寝食を忘れて働く気になるかどうかも、
 その人の気の持ちようである。
 やる気がなければ、もう人生の土俵に上がる前から
 勝負に負けたようものである。」
 「戦後からこの50年、バブルの絶頂期までは日本の経済は成長の一途を辿っていた。
 途中で紆余曲折はあったが、前年に比べて売り上げは増加し、
 インフレもあったが、それを上回る所得水準の上昇が続き、
 地価も株価も上がって人々の財産は堅実に増え続けてきた。
 それが一転して成熟社会になり、逆にマイナス成長、デフレの時代になってしまった。
 商売をすれば損をするし、株も土地も下がって財産は減る。
 どっちを向いても悪いことばかりで、
 いい話はさっぱりこない。
 こういうときは悲観論者が勢いを得る時期である。『どうだ。やっぱり世の中は悪くなる一方だろう。』
 『人間、自分の好き勝手なことばかりしてきた罰が当たったんだ』
 『ノストラダムスの大予言じゃないが、もうそろそろ
 この世もおしまいだ。覚悟はできているか。
 できていてもいなくて結果は同じだよ。ではさようなら』
 といったことになるが、こんな話には耳を傾けるな。
 世の中はこれでダメになるわけではない。私も
  小平と同じように、末世の思想は信じない。 人間には知恵もあれば、向上心もある。
 過ちに気づけば改めることもできる。
 だからいっぺんにはよくならないけれども、
 少しずつはよくなる。
 そう思って生きる人に私は拍手を送りたい」
 (『楽天家でなければ生きられない』平成9年)
 |