第202回
「楽天家には末世の思想はない」
「小平は揮毫を頼まれた時に、
好んで『楽観』という二字を書くそうである。
中国共産党の独裁者として、
中国人の間でも毀誉褒貶の多い人だが
ソ連の解体を先頭に、
世界中を震撼させた共産体制の崩壊を
目の当たりにしながら思い切った方向転換をして、
中華人民共和国を改革開放に導いていった手腕は、
天安門事件のようなマイナス面はあるにせよ、
後世高く評価されるべきものである。
私などの人生も、学生時代に机を並べたクラスメイトや
物書きの同業者に比べると、心の休まるひまもないような
波瀾万丈の人生であるけれども、
フランスに留学していたチビッ子の小平が
中国共産党に加わり、中国国民党と死闘を続けながら、
毛沢東の下で共産党の天下を築き上げていった
紆余曲折の人生には比べくもない。」
これは邱さんが6年前の平成9年に発刊した
『楽天家でなければ生きられない』の第一章、
「楽天家には末世の思想はない」
の冒頭に書かれている言葉です。
「その人生は山あり谷ありで、いつも壁にぶつかったり、
行く手を遮られたりして、一寸先は闇という目に
さんざんあわされたに違いない。
それでも自分の人生をふりかえってみて
『楽観』という二字で要約するところを見ると、
自分が生きてこられたのは、
どんなに苦しい目にあわされても決して悲観せず、
途中であきらめたりしなかったからだと
自ら頷くところがあったに違いない」
私なども小平の伝記を読んだことがありますが、
確かにその人生は起伏に富んだものですね。
邱さんは続く文章の中で、小平が好んだという
“楽観”を旨とする生き方、考え方を解説しています。
「小平が楽天家だといって、
小平が世の中を甘く見ていたということではもとよりない。
楽天家とは、事態を甘く見ているとか、
何事も自分の都合のよいようになると過信することではなく、
死力を尽くして頑張れば、そう悪い方向にはいかないものだ、
そうこうするうちに道はしぜんにひらけてくるものだ
という信念を持っていることである。
このことは人生を生きるうえで
絶対に必要な条件の一つだと私は思っている。
またそういう信念がなければ、
途中で挫けて初志を貫くことは到底できないものである。」
(『楽天家でなければ生きられない』平成9年)
|