| 第194回現状は変わらないという考えでは先は読めません
 もし、私が吉村さんと邱さんの対談に立ち会い、二人の意見を拝聴していたらどうだっただろうかと想定すると、
 私はきっと
 「日本に自動車ブームが来るなんていうことはありっこないよ」
 と思ったに違いなかろうと思います。
 というのも、自分の昔を振り返ると、
 世の中はいまのままで推移するという見方をしていて
 世の中はドンドン変化するのだという見方が
 欠落していたことが思い出されます。
 私は昭和40年に八幡製鉄という会社に入社し、大阪府の堺市にある製鉄所で昭和48年まで勤務しました。
 その8年間の最後の方だった思いますが、
 製鉄所の管理センター周辺に富士通の
 ファコム(FACOM)という文字が書かれた販促旗を
 数多く見かけるようになりました。
 製鉄所が富士通が開発したコンピュータを
 採用するようなったからです。
 当時私は、事務所の周辺に並べてられたこの旗をみながら「国産のコンピュータなんてうまくいかないだろうになあ」
 と心の中でつぶやきました。
 そうつぶやく私の頭を支配していたのは、
 いまコンピュータの分野で日本はアメリカの後塵を拝している、
 だから今後とも日本はずっとアメリカの後を走り続けるだろう
 という貧弱な考えに過ぎなかったのです。
 いま、富士通の沼津工場を訪れると、昭和34年か15年にわたって日本使用された
 国産のコンピュータが展示されています。
 このコンピュータの開発のリーダーは
 池田敏雄さんという人でした。
 池田さんの人となりや業績については後輩として一緒に開発に取り組み
 のちに富士通の社長になった山本卓眞さんが
 「私の履歴書」で紹介し、
 またNHKの人気番組『プロジェクトX』も
 「国産コンピューター  ゼロからの大逆転」
 と題してとりあげました。
 こうした先人たちの努力は、富士通が昭和54年に売上げで日本IBMを抜き、
 第1位に躍り出る原動力となりました。
 そんなことを知って、私は自分の想像力が恥ずかしいほど貧弱なものであったことを思い知りました。
 私などが肝に銘じなければいけないのは人間が主体的な努力を発揮することによって、
 それまでの常識を超えるような結果が生まれるのだ
 ということです。
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