第193回
「自動車ブームが起これば、道路株が買い」
邱さんは晴海の自動車ショーにでかけ、日本の若者たちの
自動車に向ける視線が尋常なものでないと感じました。
「そう思ったので、吉村さんが日本の自動車産業に対して
否定的な意見を述べても、そのまますんなりとは
受け入れられなかった。
あれだけ熱烈な潜在需要がうしろに控えておれば、
自動車産業は必ず発展する。
もし日本の道路事情が悪いとすれば、
自動車の洪水がやがて日本の狭い道を拡げることになる。」
(「技術革新が産業界の地図を変える」
『金儲け・発想の原点』に収録)
と邱さんは展望しました。
「実際、その後の日本の自動車産業の発展ぶりを見る限りでは
私の見方が正しかったことになる。
もとより自動車産業に身を挺してきた人々の努力に
負うところも大きい。
と同時に、物事の成否は既存の常識や
現状だけで判断すべきものではなく、
同じ現象でもどういう角度から見るかによって
違った結論が出てくるものである。」(同上)
さて面白いのは邱さんが自分の予感を発展させていることです。
「もし自動車がブームになるなら、
むろん、自動車の株を買ってもさしつかえないが、
自動車が巷にあふれるようになれば
自動車の洪水が道を拡げるようになる。
ところが、日本の国は狭い国土の上に、
山あり川ありの地形だから、もし高速道路や
新幹線を通そうと思えば、山にはトンネルを掘り、
川には橋をかけなければならなくなる。(略)
『自動車ブームが起これば、次には道路株が買いだ』
と、私の頭のコンピューターはにわかに忙しく
回転しはじめた」(『一家に一台、火の車』昭和62年)
と邱さんは当時の自分の頭のなかで起こったことを書いています。
想像力を逞しくして未来を描くということが
どういうことなのかを、私たちにわかりやすく
伝えてくれる事例ですね。
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