第183回
悲観ムードの中で貫徹した邱さんの常識破りの発想に乾杯
邱さんの“中国の香港化”説に刺激され、
平成3年の夏に香港を訪れたとき、九龍地区で
私でも買えそうな一坪ショップが売りに出されていました。
「それをあなたは買いますか、それとも買いませんか、
どちらですか」という問いを私は自分自身に投げかけました。
別段、そんな賭けにでなければならないというような事情は
一つもありませんでした。
しかし、『あの場面でこう考えた』というのと
『あの場面でこう考えてこう行動した』というのでは、
その後の自分の人生にあたえる影響が
違ってくるようなような気がしたのです。
今にして思えば、邱さんの判断の奥にある読みには
届いていなかったのですが、
「中国がみすみす金の卵をつぶすようなことはしないだろう」
と思って、邱さんの仮説に賭けてみたくなり、
その証として一坪ショップを買うことにしました。
それから約6年の間、私はこの小さな不動産物件をもち続け
香港返還の直前に買いたいという人が現われたので売りました。
売った値段は最初に買った値段の3倍でした。
邱さんについてすぐに走った人なら
私の倍くらいの利得を得られたでしょう。
そうした体験をし気分を浴していた直後で、
香港が返還されるまで、あと2ヶ月でというタイミングで
私が香港に投資をしていたなどということは全く知らない長男が
私と妻に香港のツアーをプレゼントしてくれました。
もちろん、贈ってくれたツアーに喜んで参加しましたが、
ツアーをリードしてくださったバスガイドさんは
日本語が堪能で、日本の事情にも通じたベテランの女性でした。
そしてホンネのガイドをしてくれました。
「あまり、大きな声ではいえませんが、香港に住んでいる人は
中国に返還されることを心配しています。
こんなことを言えるのはあと2ヶ月までのことです」
と言っていました。
香港の将来を暗く見ているには、日本のマスコミだけではなく、
香港の多くの人が返還を怖れているのだということを知って
勉強になりました。
そして香港現地でも、また少し離れた日本でも
悲観ムードが漂う中で、とうとうと自分の説を開陳し、
かつそれに従って行動した邱さんの勇気と胆力に敬意を
評したい気持ちになりました。
私はそのとき受けた気持ちをホテルの便箋用紙に書き、
香港の人たちの気持ちに通じておられれるであろう、
邱さんの奥さんに送らせていただきました。
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