第164回
商売が斜陽化すると、倒産が待っています
ずいぶん前のことですが、
北九州市の門司にあった印刷会社を訪ね、
その会社の経営者から経営の実状について
話を聞いたことがあります。
たまたま私が親しくしている経営者が、
門司でマンションを建てるために、
門司港にあった旧財閥系の会社のレトロ調の倉庫を買い、
ついでに倉庫の隣にあった印刷会社の工場も買いました。
私の友人はその印刷工場を買い入れる過程で、
持ち主の印刷会社の経営者から、
商売がうまくいっていないことを聞かされたようで、
その友人は私に一度印刷会社の経営者の話を
聞いてやってくれといいました。
私が話を聞いたからといって、
何かができるわけでもありませんが、
私は当時コンサルタントをやりたいと言っていましたので
そんな私の勉強になるのではないかと思ってくれたのでしょう、
私はのこのこ印刷会社を訪ね、商売の苦労話を聞きました。
昔、門司には国鉄の九州地区全体を管轄する管理局があり、
そちらの筋から時刻表など鉄道関係の印刷物の注文があり、
鉄道会社から出向者なども受け入れてきたのだそうです。
しかし国鉄が分割され、JR九州が誕生し、
その管理機構が福岡市の方に移るなどのことがあって、
タダでさえ少なくなってきている仕事が更に減り、
また、時代遅れになってはといって機械を買ったのはいいけれど、
十分稼動させるだけの注文が取れず、
毎日アップアップしているといった話でした。
私は話をきいている間に、「この会社いつまで持つのかなあ」
と心配になりました。
当時、私は東京の本社に籍をおいて、勤め先の新日鐵が
北九州市につくったテーマパークの隣地に
ホテルを誘致する仕事を担当しており、
月に一、二度北九州市を訪れていました。
そのついでに門司に立ち寄り、印刷会社を訪ねたわけですが、
私は列車のなかで読もうと思い、カバンのなかに忍ばせていた
邱さんの『朝は夜よりも賢いー私の体験的ピンチ脱出法』
を取りだし「参考にされたらいかがですか」とさしあげました。
どうみてもこの本を必要としているのは私でなく、
この経営者だと思ったからです。
しかし、名著『朝は夜よりも賢い』も
この経営者には役に立たずじまいだったようです。
ひょんな場所でこの会社の末路を聞くことになったのです。
私はこの印刷会社を訪れてしばらくしてから勤め先をやめ
研修の講師になりました。
講師になって間もない頃、埼玉県のある大きな研修会場にでかけ
化学会社の部長さんたちが集まる勉強会に出席しました。
昼になって参加した部長さんたちと食事をともにしましたが、
そのうちの一人が、私が訪れた門司の印刷会社を
得意先にしていたようで、
「あの会社は倒産したんですよ」と教えてくれたのです。
「やっぱりそうか」と思い、
あれこれ聞く気にはなりませんでした。
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