第157回
死ぬまで仕事をするには自営業者になるほかありません
邱さんが同窓会に出席し、
気弱になっている友人とあった直後のことでしょうか、
邱さんが奥さんに話しかける会話の様子を書いた文章が
「『死ぬまで現役』が最高の健康法」
と題するエッセイのなかに書かれています。
「『死ぬまで現役』ということは、
自営業をやっている人間にとっては当たり前のことである。
私のような自由業者は、定期収入の道を得るために
不動産投資をやる必要があったが、
職業としてはどこでやめさせられるということがないから
『死ぬまで現役』は可能である。
最近すっかり元気のなくなった友人たちに会った直後
『本当に定年がなくってよかったなあ』
と妻に言ったら、妻曰く
『あなた年をとったら、皆同じですよ。あなただって、
そのうちにだんだん電話がかからなくなって最後は一人ですよ』
そういわれてみれば私と外界のコミュニケーションは
すべて電話である。
一日に何十回となく電話がかかる。
仕事の邪魔になって本当にうるさいなあと思うが、
もし一週間に一ぺんも電話がかからなくなったら、
生命の綱が切れてしまったようなものではなかろうか。
たとえ文句の電話であっても、
まだ電話のかかってくる間はハナなのである。
サラリーマンに比べれば、いくらかましだとは言えるけれども、
第一線から退くことは、芸人にとっても文士にとっても
ふさぎこむ第一のきっかけになる。
サラリーマンの場合は、
それがきわめてはっきりした形でくるから、
老いこまないことの条件は、定年になっても、
次にやれるような仕事を予め見つけておくことであろう。
したがって、子会社にまわされるくらいなら、
まだ足腰のしっかりしているうちに、
『死ぬまで現役』でおられるような仕事を探したほうがよい。
『お前はクビだ』と言われないためには、
小さくても自営業以外に方法はないである。
ただ『お前はクビだ』と言われないようにするためには、
一定のスケールの事業基盤を築こうと思えば、
やはり定年になってからでは間に合わない。
するとまた定年は40歳がよい
というところまで逆戻りしてしまうが、
定年近い人にそんな意見を述べてもはじまらないだろう。
とりあえず『死ぬまで現役』でおられるような仕事を見つけて、
孤独にさいなまれないですむ老後を送る手立てが
どうしても必要である。
というのも黄昏になってからあとの路程がやたらと長い人生が、
私たちの人生だからである。」
(「『死ぬまで現役』が最高の健康法」
『死に方辞め方別れ方』に収録)
|