第156回
後半の仕事は自分で探し出す必要があります
邱さんから「40歳に独立しなかったら
定年まで宮仕えするほかない」といわれても、
「そうですか。辛抱づよく60歳まで待っています」
というわけにいきません。
邱さん自身の文章の中に
「とても60歳まで同じところで
仕事をしているわけにはいかないぞ」
という気持ちにさせられる文章があるからです。
その一つが「同窓会に行きたがらない理由」
と題するエッセイです。以下はその中からの抜粋です。
「私の高校時代の友人で、
大学を出てから製鉄会社に入った男がいる。
勉強はそれほどでもなかったが、人柄もよいし、
入社後も順調に出世コースを歩いていた。(略)
しかし、どこでどう曲がったのか、
大きな会社になると重役コースも過当競争で、
尋常なことでは競争から振り落とされてしまうのか、
部長どまりで定年を迎え子会社の重役に横滑りした。(略)
5年たって60歳を迎えると、
もうあとは道端におっぽりだされる仕組みになっているのである。
その男と3年たって、あと2年しか任期が残っていない
という段階で、同窓会に行ってバッタリ顔を合わせた。
『ちょっと君にはなしがあるんだ』と言うから、
何事かと思ってそばに行ったら
『実はあと1年でおしまいなんだ。
2年たってもまだ60歳だから、
このまま家へ引き込んで晴耕雨読というわけには行かない。
君は顔も広いんだから、どこか就職先の世話をしてくれんか。
月給10万円でもいいんだ、頼む』
『わかったよ』と私はうなづいた。
月給10万円は冗談としても、
昔馴染みで人柄もわかっているから、
いよいよとなったら、
どこかに押し込むこともできないことはないだろう。
しかし、飲んだ勢いでそんなことを云っているが
今まで働いてきた会社もあるんだし、
取引先や親戚だってあるのだから、
本気になって私にたのんでいるとも思えない。
だから『わかった、わかった』と相槌を打ったのだが、
それから二次会が終わるまで、
その友人はくどくどと同じことをくりかえして
私を離そうとしなかったのである。
これには私の方が驚いた。
年をとれば、話がくどくなるのは一般的傾向であるが、
私は自分と同年輩の友人が
こんなにも年をとったとは思ってもみなかった。
『同じことをくりかえして云うな』
『昔話をするな』
『愚痴をこぼすな』と私は自分に向かって堅く戒めているが、
まさか自分と同じ年の人が
この戒律をそっくり破るようなくりごとを
くりかえすとは想像もしていなかったのである。
私はガックリして、そいつの就職の世話をしても、
世話した先に迷惑をかけるだけだから、
妙な仏心を起こすまいと思った。
と同時にもし自分がそれと気づかずに、
愚痴をこぼすようになったらどうしようかと肌寒さを覚えた。」
(「同窓会に行きたがらない理由」
『ダテに年をとらず』に収録)
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