| 第138回師を共にする人には親しみを感じます
 新しい年を迎え、私も書店で「邱永漢の実務手帳」を手に入れました。
 この手帳を手にしていつも思い出すことがあります。
 いま九州の福岡市でオリジナル・メディア・サービスという
 会社の社長をなさっている大谷鮎子さんという方と
 懇談したときのことです。
 もう15年ばかり前のことになりますが、当時、私は新日鐵八幡製鐵所にできたばかりの
 新規事業企画部門の課長として、
 東京から八幡に三度目のお勤めをしていました。
 できあっがたレールの上を走る仕事なら、
 目をつむっていても走れますが、
 新しい事業を企画するということになると
 どう取り組んでいいのかなかなか要領がつかめません。
 調べると、ニュービジネス協議会というのがあり、福岡市内にはその九州地区の組織があることがわかりました。
 そこでは17時以降に集まって、ニュービジネスについて
 意見交換していることを知り私は参加しました。
 そのとき、福岡市内の女性経営者として参加されていたのが
 大谷鮎子さんで、当地では著名な存在になっている人と
 見受けました。
 さて、その後、私が実際に新規事業企画の仕事をし、一段落させ、続いてテーマパークの広報担当の部長になった頃、
 大谷さんが大手のカード会社の福岡支店長さんを連れて、
 私のところに見えました。
 カード会社のカードが使える加盟店を
 北九州市内で開拓するために、店を回ってきたとの話でした。
 一通りの話が終わった後、私は懇親の席を設けていただきました。大谷さんは色々な店に回ってみたところ、
 製鐵所の評判が良くないので
 ビックリしたといったことを指摘してくれました。
 そんな話をする人に悪い人はいないと思い、
 私はかえって親しみを覚えましたが、大谷さんは経営者で、
 ひょっとして接点になるかもしれないと思い
 私は自分が邱永漢さんの本の愛読者で、そのことが
 今の仕事に結構役に立っていることを話しました。
 するとどうでしょう、大谷さんは下を向いて、そばに置いたバッグに手をやり、
 「実は私もそうなんです」といって、
 その中から「邱永漢の実務手帳」取り出されたのでした。
 大谷さんによると日本の男子は仕事、仕事でそれしか眼中にない風だけれど、
 邱さんは食べるとか旅をするとか、
 生活を楽しんでおられる風で、そこが好きだとのことでした。
 一人の人のどういったところに目をつけかに違いはあっても、好ましいと思っている人が共通していることを知ると、
 人は相手の人に親近感を感じるものであることを私は知りました。
 私は大谷さんと一緒に仕事をすることにはなりませんでしたが、今でもときどき交流させていただき、
 福岡支店で新規の仕事を企画することになったような友人には、
 ぜひ大谷鮎子さんに会うといいよと紹介させていただいています。
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