| 第112回編集長曰く「これは『邱永漢作品の読み方』ですね」
 私が書いた文章を邱さんに見ていただき、激励の言葉を添えていただくことになったのですが、
 その後出版社から音沙汰がない時期が続きました。
 あとで知ったのですが、すでにできあがっていた
 出版スケジュールに私の本の出版が割り込み、
 編集担当の方が目を通されるのに時間がかかったのです。
 修正原稿を届けてから3ヶ月ばかりたった8月のはじめ編集部長の岡本信弘さんから私に連絡がありました。
 岡本さんは、私が邱さんの作品エッセンス集を
 編集するようになってから、ずっと私を助けてくださった方です。
 「戸田さんの文章、読みました。とても面白かったですよ。
 とくにハウスメーカーの創業者の方に
 ホテルの誘致をお願いに行かれるところが良かったですね。
 あれ、おいくつくらいの時だったんですか」
 「48歳くらいのころですかね」
 「働きざかりのころだったんですね。
 ところで、戸田さんの文章は『邱永漢作品の読み方』ですね。
 その趣旨を徹底する意味で、その線で最後の三章を
 書き直されたらどうでしょう」
 「へえ、また書きなおすの」と思いましたが、そんなこと岡本さんには言えません。
 私は邱さんの話がたくさん出てくると、
 読んでいただく人が食傷気味になるのではないかと思い
 最後の三章には邱さんに関した記述を避けていたのです。
 しかし邱さんから教わった事を書き続けたほうが
 首尾一貫したものになるということなら、
 書きつぐことはいくらでもあります。
 わたしはその場でアドバイスを受け入れ時間もかけずに最後の三章を書き直しました。
 書き直した原稿を届け、少ししてから岡本さんに
 「書き直し原稿、いかがですか?」
 と伺うと、「たいへん、結構ですよ」とのことでした。
 やれやれです。
 が、本のタイトルをどうするかがまだ残っているのです。
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