第108回
友人の読後感に元気づけられる
私は出版社に原稿を届ける一方、
研修の仕事を通じてお世話になっている友人に
読んでもらいました。
その友人の一人と久しぶりに再会したとき、
「戸田さんの書かれた文章を読みましたが、
とっても面白かったです」と
しみじみとした口調で感想を伝えてくれました。
日ごろあまり口数の多くない人なので、
その友人の言葉には真実味がこもっているように感じました。
もし友人が言うように本当に面白いものになっているとしたら、
書いたものが本になるかもしれないという予感がふくらみ、
この友人の感想にかなり元気づけられました。
私はそれまで、邱さんの作品を抜粋した本を4冊編集し、
そのうち3冊には解説を書かせていただいていました。
それはあくまで邱さんの作品集です。
自分が本の執筆者となって活動するのは初めてのことです。
出版事業は出版会社がリスクを負って行う事業で、
予想以上に売れた場合は儲かりますが、
売れなかった場合は在庫の山を抱えることになります。
そう思っていましたので、私は書いた文章が本になるかどうかは、
すぐには決まるまいと思っていましたが、
何回か出版社に電話するうちに、
出版に傾きつつある感触が伝わってきました。
ところが、私がパソコンで書いた原稿の活字には、
たくさんの誤字、脱字がありました。
出版社の窓口になってくださっていた西澤さんは、
ほかの人に見てもらえるようにと、
訂正すべき箇所や訂正文案まで私に示してくださいました。
ちょうどその後に連休に入りましたので、
私は連休中に原文を訂正しました。
訂正原稿を我が家の印刷プリンターにかけると、
印刷された原稿が出てきました。
ただ、もう一部コピーしておく必要があります。
我が家にあるコピー機は1枚、1枚手で操作する仕組みのもので、
本の200ぺージに相当する印刷紙を
いちいち手でコピーするのは億劫です。
次女に聞いたら事務サービスをする会社があるといい、
インターネットで検索した結果、最寄店として
横浜駅前に一店あることをつきとめてくれました。
その代わり、ヨコハマ・ベイ・シェラトン・ホテルの
中華料理屋に連れて行けといわれ、
家族中ででかけましたので、
コピー代は高くつきましたが、
ともかく、本の原稿が二部揃いました。
連休明けに訂正した原稿を西澤さんに届けました。
そしてぶしつけながら「出版されますか」と伺うと
「出版します」という言葉が返ってきました。
その言葉を聞いたときには、
私は用意していたもう一冊の原稿の束を抱えて、
邱永漢事務所の方面に向いていました。
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