| 第101回邱さん曰く「僕の本はよく売れる」
 私は自分が選んだ邱さんの文章のコピーと自分の解説を書いた原稿をひとまとめにして出版社に届けました。
 私が届けた原稿の束が邱さんのところに運ばれたようで、
 しばらくしてから出版社に電話をすると、
 「本の名前が決まりましたよ。邱先生の『まえがき』原稿も
 届いていますよ」という返事がかえってきました。
 すぐに出版社にかけこみ、今回のエッセンス本に邱さんが
 『原則がわかれば生き残れる』という題をつけられたことを知り、
 また本の「まえがき」用に邱さんが書かれた原稿を拝見し、
 そのコピーを帰りの電車の中で何度も何度も
 目を通したことでした。
 それからしばらくして、また出版社に電話をすると今度は「本ができていますよ」とのことで、急いででかけました。
 出版社の部屋で、邱さんの笑顔が表紙に飾られた
 『原則がわかれば生き残れる−目から鱗のおちる邱永漢セオリー』
 にお目にかかりました。
 自分がかかわらせてもらった本が世に出ると、それがどういうところで売られるのか、
 また売れ行きの具合はどうなのか、そちらに関心が向きます。
 この本が出版された時期はちょうど私が研修講師になり、
 あちこちの会社に研修の売り込みに出かけはじめた時でもあり、
 私は会社訪問のあいまをぬって、
 最寄の本屋さんに立ち寄りました。
 そしてこの本が並べられているかどうかとか、
 売れ行きはどんな具合かなあとか、それとなく観察しました。
 そうしたなかでもビックリしたのは、
 東京駅前の八重洲ブック・センターを訪れたときのことです。
 私が玄関に入ると、向こうの方から邱さんが私を迎えてくれているのです。
 実は一階の入り口のところの、
 「今週のベストセラー」という欄に、
 『原則がわかれば生き残れる』が並べられていて、
 表紙に刷り込まれた邱さんの笑顔が
 私を迎え入れてくれるように思ったのです。
 つい先日まで、ああでもない、こうでもないと言葉をひねり回しながら、
 修正を加えていた一冊の本が
 自分の目の前で並べられているのです。
 私は、驚きもすれば嬉しくもなり、
 邱さんの秘書の井口さんに連絡し、
 私は出版にかかわらせていただいたお礼を言いに
 邱永漢事務所をたずねました。
 私が邱さんにこの八重洲ブックセンターでの一件を報告すると邱さんは私に言いました。「僕の本はよく売れる」と。
 「オオ」と私はあとずさりしそうになりましたが
 ほんとうにその通りです。この本もよく売れました。
 そして邱さんの真率な言葉に接し、
 よく売れる作家の自信の一端に触れた思いがしました。
 文章を書き、それが一冊の本になって、世に出たら、
 たくさんの人がそれを読み、読まれるから出版社から
 また本をだしてしてほしいと依頼があり、
 文章を書くことが続くという良循環に入っているんですね。
 私は『原則がわかれば生き残れる』の誕生にかかわらせてもらい、邱永漢という作家が出版の世界で築き上げた信用と
 信望の厚さ、深さを実感させてもらいました。
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