第99回
「邱センセイのことですからお金はいりません」
平成4年7月のある日の夕刻、私は石原さんの事務所で、
出版社であるグラフ社の人と打合せすることになりました。
グラフ社から見えたのは
私が一年ほど前に訪れたときに応対してくださった西澤さんで、
西澤さんは、私の顔を見るなり
「ああ、あなたでしたか」と
ビックリしたような表情をされました。
この席には邱さんの中国投資視察旅行で一緒になり、
以来すっかり親しくなったエンジニアの友人も
同席してくれました。
その友人も私もともに組織社会の一員でしたが、
邱さんがこれからのアジア、
とりわけ中国の将来について書いた著作を読み、
邱さんが北京に建てるというマンションの一室を買った仲間です。
当時、私の友人もドンドン発表されていた邱さんのアジア、
とりわけ中国に関する作品に興味を感じていましたので
その方面の作品のエッセンス本を
編集させていただきたいと申し入れました。
私と西澤さんの間で意見交換したのち、
西澤さんの方から今回、私の編集作業に対する
報酬の話がでました。
私はとっさに「邱センセイの作品のことに
かかわらせていただいているのですから、
お金は要りません」と返事をしました。
我ながら、カッコいいことを言ったものだと思っています。
『武士は食わねど高楊枝』のたぐいだったのかもしれませんが、
私は自分の会社から俸給をもらっているし、
邱さんからはいっぱい恩恵をいただいているし、
おまけに、その作品にかかわる作業にかかわらせていただき、
こんな幸せなことはないと思ったからです。
さて、その後、西澤さんから
邱さんにあってその意向を確かめたら、
「アジア関係の作品編集というより、
読者である戸田さんが邱さんのどういう視点や、
どういう言い回しに関心を抱いたかを中心に
編集してもらったほうがいいのではないか。
また一つ一つの作品に論評を加えるのは大変だろうから、
最後にまとめて論評を加えてもらったほうがいい」
との話でしたよと、邱さんのご意向を伝えききました。
邱さんのご意向ですから、神妙に聞きましたが
「一つ一つの作品に論評を加えるのは大変だろうから」
という点については各章毎に解説を書く方がより挑戦的で、
勉強になるのではないかと考え、
各章毎に解説を加える方針で編集にかかりました。
こうして邱さんのエッセンス本編集の仕事がはじまりました。
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