第94回
エッセンス本編集の夢はかないませんでした
私は邱さんのエッセンス本、
『メシの食える経済学』の版元をたずねました。
邱さんのエッセンス本を編集させてもらえないかと
考えてのことです。
なまじ予約の電話をいれたりしたら
断られるのではないかと思って、予約なしに訪ねました。
「邱永漢先生の本の編集を担当されている方に
お会いさせていただきたいのですが」
と私は申し出ました。
そのとき、西澤さんという背の高い人が応対してくれました。
西澤さんは、若いスタッフの人たちと
打合せしているところでしたが、
打合せを中断し、丁寧に応対してくださいました。
当時、私は新日鐵の部長をしていて、その名刺を渡して、
私が邱さんの本の愛読者で
色々な面で役立たせてもらっていることを伝え、
その体験をもとに、邱さんのエッセンス本を
編集させていただきたいと申しでました。
すると西澤さんは私の名刺をしげしげと見ながら、
「あなたのような立場の人が邱さんにかかわられるなら、
『邱永漢の人物論』といったものを
お書きになることではないですか」と応じられました。
「エッ、邱さんの人物論!!」と
私はビックリしました。
西澤さんは辛口批評家として大活躍された
大宅壮一さんの秘書をつとめられた人で、
大宅さんが亡くなられたあと、
大宅文庫の創設に携わっておられたそうです。
私も一度訪れたことがありますが、
ジャーナリストたちにとっては
資料の宝庫のようなところですね。
西澤さんは「ちなみに邱永漢の人物論として
どういう本があるか調べてあげましょう」
と席を立って、大宅文庫の人に電話をされました。
私は内心、「そんな本があればとっくに読んでいるよ」と
思いましたが、初対面の人のご好意を断るわけにもいきません。
西澤さんは電話が終わってもとの席にもどり
「邱さんについて書いた本は出ていないようですね」
と教えてくださり、邱さんの人生の遍歴を
調べるための参考本として
『私の金儲け自伝』のほかグラフ社が出版した
『お金儲けの神様が儲けそこなった話』
(別名『失敗の中にノウハウあり』)があることを
教えてくれました。
私は紹介してもらった2冊の本は穴が開くほど読んでいましたが
お礼を言って出版社を去りました。
結局、邱さんのエッセンス本を編集させて欲しいという要望は
届かずじまいでした。
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