第71回
「ナンピン」買いのテクニックが欠かせないことを知りました
平成3年の1月に私は新日鐵の本社に戻りましたが、
その頃、親しくなったばかりの友人と雑談することがありました。
私が邱さんの本を愛読しているというと、
友人はテレビで記者の質問に答えていた邱さんについての印象を
語りだしました。
「邱永漢さんて、すごい人ですね」
「そうですか」
「株の話でテレビの記者が邱さんに、
『買った株が下がったらどうするんですか』と聞いたんです。
邱さんは『下がったところでまた買う』と言いましたね。」
「ほおお、それで?」
「記者が『買った株がさらに下がったらどうするんです』と
たたみかけたんです。邱さん、どう答えたと思います
『下げたらまた買います』と答えたんです。
記者がビックリして
『それからまた下げたらどうするんですか』と聞いたんですよ。
邱さん『そうなったらまた買います』と答えましたね。
どこまでいっても『また買う』の一点張りで、ビックリしました」
友人が伝えてくれたのは、ブラックマンデーのときに
テレビの画面に映し出された光景ではないかと思います。
ブラックマンデーというのは昭和62年10月19日の
「暗い月曜日」のことで、この日、
アメリカで1日に22.6%、日本で14.9%と
株の歴史始まって以来の下げ幅を記録しました。
その日、邱さんのところにテレビ局から取材があったことや
邱さん自身は新日鐵株と富士通株を買ったことが
邱さんの本に書かれています。
この日、テレビの記者は邱さんのところに駆けつけ、
悲壮な話が引き出せると思っていたのではないでしょうか。
それが「私は今日の暴落の中で、株を買いました」と
答えられ、記者さん、あっけにとられて、
「買った株が下がったらどうするんですか」と
聞いたのではないでしょうか。
私はこの邱さんのインタビュー風景を見損ないましたが
『株が本命』など、邱さんが株について書いた本を読むと、
「大暴落は株を買いたい人にチャンス」とか
買った株がその後で下がった時には
さらに買うのがいいと書いていて、
邱さんの行動が自分のセオリーに添うものであり、
また邱さんの考えが理に叶っていることに気づきました。
株を買った後に、株が下がったとき、買いを入れる行為は
「ナンピン」といわれていますが、そういうときは
更に下がるんじゃないかという恐怖心が起こって、
買いに出にくいものですが、倒産する恐れさえなければ、
値を下げたところで買いを入れることで
買い値の平均を相場に近づけていくことができますね。
邱さんは心理的な抵抗感より、
リクツを優先させているんですね。
こんなことから、私は邱さんの株式投資セオリーには
ナンピン買いのテクニックが組み込まれていることを知りました。
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