| 第59回なまじ経験があると、新しいことへの挑戦が鈍ります
 テーマパークのPRの仕事を2年ばかりやっていた頃、八幡製鐵所の幹部の使者として、開田一博さんが私のところに
 やってきて「パークの隣接地にホテルが欲しいとの声が
 高まっていますけど、どうしたらいいでしょうか」と
 相談に見えました。
 私は前にホテルの建設について勉強したことがありましたので、そのときの経験でこう答えました
 「地方でホテルを建てようと思えば、土地の所有者が
 ホテルを自分で立てるのが前提になっているみたいだね。
 その点、ウチの会社にその考えはないし、経済的なゆとりもないね。
 加えて、ここは工場の煙突の見える風景だから、
 ホテル屋さんが出店意欲を持つような要素も少ないよね。
 だからここにホテルを招き寄せることはほぼ不可能に近いと思う。
 ただ、そうとばかり言っておれないというのであれば
 少なくとも2つの条件を整えることが必要じゃないか。
 一つは新日鉄本社のどこかの部署に、
 ホテルの呼び込みの仕事に専従するポストをつくること。
 そして、このポストには何としてでもホテルを引っ張ってくるぞと
 情熱を燃やす人物を当てることじゃないか。
 そうしないと世間の人はまともに相手にしてくれないのじゃないか。」
 私がそう言うと製鐵所の方からすぐに返事が返ってきて「本社とかけあって条件を整えたから君にやってほしい」と
 いうことになりました。
  誰だって、テーマ・パークの傍に宿泊施設があったらいいと考えます。
 私自身東京、大阪から釜山、ソウルまでPRに出かけていって、
 お客の呼び込みには宿泊施設の充実が必要だと思いました。
 しかし実際にパークの隣にホテルが出現することはないと
 思っていました。
 必要性はわかっても、ホテルを呼び込む条件が欠落している
 と考えていたからです。
 今から思えば、私が少しばかりホテル事業の常識をかじっていたから、頭が可能性より困難性の方に傾いたのです。
 邱さんは『死ぬまで現役』のなかで
 「過去の経験は役に立たないどころが、邪魔立になってくる」と
 書いていますが、本当ですね。
 私の個人的感情など無頓着に事は動きます。私は4年ぶりに本社に席を移し、
 頭の痛い仕事を始めることになりました。
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