第50回
冒険野郎の自分と慎重居士の自分が
夜中に綱引きをはじめました。
「全員一致の決定と行動」の原則で
動いている組織の中のことです。
囲の理解を得なければことが進みません。
私は自分の立てた事業プランに対して上司や同僚が
どう考えているかに耳を傾ける必要があると思いました。
「建前の話はこの際、役に立たないから本音で答えて欲しい」と
お願いしました。
すると私の直属上司になっていた人はその一言を待っていたとばかり
「戸田クン、ここは田舎だよ。こういう事業が受け入れられるのは
都会で、ここでは無理じゃないか」
と発言しました。
また同僚の一人も同じ論調で
「ここは田舎ですよ。年を取った親を施設に入れたら
子供は親不孝者と周囲から白い目で見られます。
そういう生活習慣の中で生きているから、
この事業はナカナカ受け入れられないのではないですか」と
言いました。
さらに、この事業が正式に決まったら、
その運営に当たることになる関連会社の役員も
「この町では2千万円も出せばゆったりした
ファミリー・タイプのマンションが買える。
2千5百万円出して、しかも自分が死んだら財産権が消滅する
マンションが果たして売れるだろうか。
危険だから止めておいた方がいいのではないか」と
私をジンワリと諭しました。
私はあなた方と違う層の人を顧客に想定していると考え、
またそれを口にしましたが、
お客になってくれそうな人の声は届いてこないし
こんなに皆が危険視するプランには
手を出さない方が賢明なのかと思いました。
それから夜中の2時、3時頃に目がパッと覚めるようになりました。
自分の中に冒険野郎の精神と慎重居士とが同居していて、
冒険野郎と臆病居士が綱引きを始めるのです。
前に進もうとする自分と止めておいた方がいいのではないかいう
自分が一つの心の中で互いに格闘します。
「ここで怪我をすまいと思えば
あっさり事業プランを取り下げることだろう。
ただそうしたら新しい経験が積みあがらない。
事業のタネを見つけるまではいいとして、その周辺を調べたら
どんな場合も、あれこれ難しい条件が出てくる。
そこでやめたとなり、また別のプランを探す。
こういうことの繰り返しでは、先が思いやられるなあ」と
考えが一巡して、また眠りこむということが続くようになりました。
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