第42回
新しい事業を立ち上げていくのには独自の才覚が要求されます。
私が最初に立てた事業は出発の段階から低迷を続け、
「アア、これは失敗だ」と直感しました。
自分がこれがいいと思った企画がうまく行かず、
ジワリジワリと失敗のショックが私を襲ってきました。
うまく行かないと、その事実から目を逸らしたくなります。
その場から逃げ去ってしまいたくなります。
しかし、逃げ出してしまったのでは明日は開けません。
「なぜうまく行かなかったのだろうか」
「どこに問題があったのだろうか」
と考えることになりました。
煩悶が続くなかで、一つのことが見えてきました。
新しい事業を企画し、それを立ち上げていくには
基盤ができた事業を回していくのとは別の
才覚が要求されているという「発見」でした。
大半のビジネスマンが毎日やっていることは
既に骨格の出来上がった事業を運転していくことですね。
そこに要求されるのは
「誰もが認めているルールに従って仕事をする」
という行動です。
「ルール」とは「過去の経験から得られたもの」です。
「過去の経験から得られた蓄積」にもとづいて
つくられた「ルール」に従って行動する、
裏側からいえば
「経験の裏づけのないことはやらない」
「人が危ないぞというようなことはしない」、
「安全第一の精神でいこう」
という前例踏襲主義が普段の仕事の要領になっています。
また仕事はほとんど場合、チームを組んでやっていますが
私たちはチームのメンバーが
「全員一致」で事に当たることを重視します。
一人でも反対する人がいたら、
反対する人に翻意してもらうよう働きかけます。
こうした「安全第一の精神」と「全員一致の行動」、
が普段の仕事をしていく場合の暗黙の前提になっています。
考えてみれば、私などが長年の仕事を通じて
身に着けていたのもこの方面の能力でした。
これは既に骨格とか枠組みができあがった仕事を
日々処理していくには適したものでしょう。
しかし、新しい事業を創り出すには
「前例がない。だからやってみようじゃないか」
という発想が必要です。
将来に対し自分なりの読みをし、それに挑んでいくことが必要です。
考え出した事業プランは「過去の経験」にはないものですから、
多くの人から賛同を得ることはあきらめた方がいいのかもしれません。
頼りになるのは自分だけと覚悟すべきなのかもしれません。
新規の仕事を創り出していく人間には
こうした挑戦的で他を頼まない姿勢が求められるのに、
私は用心深く石橋をたたき、かつ周りの目を気にかけつつ
事に当たっていたことに気づきました。
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