| 第40回今の時代に流れている潮流を邱さんに教えてもらいました
 新しい仕事を創り出すには、今後世の中はどういう方向に動いて行くのか
 またどのようなことが求められて行くのか、
 想像をめぐらさなければなりません。
 私は昭和60年末から61年にかけ、さびれつつある企業城下町で新規事業を考えるなかで、
 邱さんは世の中の流れをどう見ているのか知りたいと思いました。
 そう思って赴任先に持参していた『邱永漢の株入門』という本を
 ぺらぺらめくっていると、
 「今の時代を流れている潮流は老齢化・成熟化・国際化の三つだ」と
 書かかれていました。
 「老齢化」というのは人間の寿命が伸びて、日本国中年寄りだらけになるということです。
 「成熟化」というのは生産体制が整って生産が需要を上回るようになり、
 生産よりもサービスに価値が置かれる時代になったということです。
 「国際化」は国境を越えて人や物やお金が激しく動き回るようになっている
 ということです。
 私はこの三つのキーワードの中で今の仕事に生かせるのは「老齢化」という切り口ではないかと思いました。
 この街の周辺でも「老齢化」は着実に進行しているに違いないと思ったのです。
 この老齢化の流れに沿った事業プランとして私が赴任する前から一つの企画案がありました。
 製鉄所の付属病院の前に管理職社宅の跡地があり、
 ここにお年寄り向けのマンションをつくろうというアイデアです。
 このプランを具体化するためにわざわざ関連会社から
 企画者を一人赴任させていました。
 ただ、お年寄り向けのマンション事業に踏み出すには数十億単位のお金がかかるし、それが果たして世の中に受け入れられるのか
 サッパリ判断がつきません。
 という理由で、このプランは塩漬け状態になっていました。
 私はこれは数少ない有力プロジェクトの一つだと思いました。
 しかし私の目から見ても、リスクが高すぎ、
 プランの具体化に走りこむには不安材料が多いと思いました。
 そこで「老齢化」に狙いをつけた別のより無難な案に取り組むことにしました。製鉄所の周辺には鉄づくりに従事した製鉄所のOBがたくさんいます。
 その人たちはいま有り余るほどの時間をもて余してるだろうから、
 「今月は山に登りましょう」
 「来月はゴルフに行きましょう」
 などとサービスを提供するクラブをつくってみてはどうかと考えたのです。
 これならお金もかからず、リスクも少ないし
 皆の賛同が得られるのではないかと考え、プランづくりにかかりました。
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