| 第31回優れた上司の値打ちは組織を離れても響いてきます
 優れた特質を持っている人は、組織を離れ、つきあいが途絶えてしまったあとでも
 「あの人はえらかあったなあ」という実感が残ります。
 慢性的に赤字部門の立て直した上司は
 私にとってはそういう人でした。
 私はのちに49歳のときに会社を辞め、研修の講師になりましたが
 あるところからリーダーシップについて何か話してくれといわれました。
 そのときパッと顔が浮かんできたのがこの上司でした。
 この上司のもとで赤字対策に取り組んだ日々が思い出されました。
 以来、変革するということのお見本を提供してくれたリーダーとしてこの上司が企画し、実行したことが頭の中に改めて刻み込まれ、
 マネージャたちをまえにした研修で、
 ときどき、引用させてもらうようになりました。
 ただ、そのことを当の本人に報告しないまま時を過ごしていることに
 申し訳無さを感じてきました。
 そこで昨年『あなたも賢者になれるー私は邱永漢さんの知恵を借りた』を
 出版したとき、この本を送り届け、お礼の電話もしました。
 たまたま本人は不在でした。
 電話に出られた奥さんに
 私は
 「昔の部下のひとりですが、
 実は今もお世話になっているのです。
 そのことをお伝えください」
 と伝えました。
 そうしたら、しばらくして当人から電話をいただきました。
 「オオ戸田君か。久し振りだなあ。
 ナンダ、俺のことをよく言ってくれているらしいじゃないか。
 ハハハハ。ありがとう。
 オレはマイペースでゴリゴリやったので、
 調整役の立場にいた君に精神的な負担を
 かけていたのではないかと気にしていたんだ。
 それがいつの間にか、一冊の本を出すくらいになったのだから
 感心するよ。感心するというより尊敬するよ。
 それにしても、君が邱永漢さんのファンだったというのは
 チットも知らなかったなあ。」
 歯切れのいい江戸っ子弁は昔のままでしたが
 険しい雰囲気の中で改革案を推し進めた上司から激励され、
 私は神妙な気分になって、近況を報告したことでした。
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