| 第29回人間は変わることを好まない生き物であることを知りました
 私が仕事をすることになった部署で、慢性的に赤字が続く状態から、収益が出る体制に仕事の仕組みを変える取り組みがはじまりました。
 このときに備えて、改革方針を練っていた私の上司は
 部下全員に対し自分の事業改革案を提示しました。
 私の仕事はこの部長の改革案を具体化していくことでした。
 当初、私はこの仕事に携わっている
 部下たちは部長の改革案に賛同するだろうと思っていました。
 しかし、私のヨミは外れてしまいました。
 部下の中核メンバーは強烈な拒絶反応を示したのです。
 その言い分によれば、うまくいかないのにはわけがあり、中小企業に向いた仕事であるのに、大手企業の一事業として
 展開していることに根本的な無理があるとのことでした。
 また改革案には会社とパートナーとの関係を変えることが
 盛り込まれていましたが、こういう方式にすると
 今まで付いて来てくれているパートナーが離反してしまう
 という指摘もありました。
 指摘自体には、もっともらしい言い分があり、相槌を打ちたくなるところもありましたが、
 最大の弱点は、「こういう風にしたらどうだろうか」
 という積極的な代替案がないことでした。
 にもかかわらず、改革の提案をした部長の悪口をささやく言葉が多く、
 ウンザリするような状態が続きました。
 つくづくと人間というのは、長年続けてきた仕事の仕方を変えることに
 抵抗を感じる生き物なのだなあと思いました。
 しかし、会社としては、将来を変える可能性を持った改革案に賭けるほかありません。
 部長が示した改革案を軸に事業の再建策に取り組むことが
 組織全体の方針として確認されました。
 私は改革の具体化に向けてレールを敷く仕事を進めました。
 その直後に、部長は去り、私もレールを敷いた直後に去るのですが
 転出した年の翌年、この部門の人から年賀状をもらいました。
 いただいた年賀状の端っこに、
 「部長が提言していたことを取り入れることで、
 私たちの事業部は年度の業績が黒字になりました」
 と書かれていました。
 皆が悪口をたたいていた部長のおかげで、
 当事者たちが救われることになったのです。
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