| 第23回中国人との交流に必要な知識も吸収しました
 私が君津製鐵所に赴任する2年前に当時、中国副首相であったケ小平さんが製鐵所を訪れました。
 赴任した年には余秋里さんという副首相も訪れました。
 どうして頻繁に中国の要人が君津製鉄所を訪れたかというと
 中国がこの頃、改革開放の方向に舵取りを切り替え、
 そのシンボル事業として、上海の宝山で近代的な製鉄所を
 建設することが決まり、君津製鉄所が技術面から
 サポートする基地になったからです。
 やがて中国から上海宝山製鉄所の実習生700人が
 製鐵所を訪れました。
 製鉄所建設の企画、準備にあたっている人達は、
 管理センターの一隅に設けられた会議室で
 日本の鉄鋼業についてレクチャーを受けました。
 日本の人事管理システムの説明は私が担当しました。
 一通り説明が終わり、事務局の人が質問を促したら、
 話を聞いていてくださった人のうちの一人が、遠慮気味に
 「袖の下の問題はどういう風に処理していますか」
 と聞きましした。
 私は質問の意味がわからず、キョトンとしてしまいました。
 「ここには袖の下の問題といった問題はありません」
 という具合に答えたかと思いますが、
 わたしは質問の背後にある中国人社会の特質を
 理解していませんでした。
 そうしたことがありましたので、邱さんが昭和48年に、出版した台湾における投資体験のまとめ、『海外投資の実際』
 (のち『国際感覚をみがく法』に改題。昭和60年)を手にし、
 中国人社会の中では「ワイロ」が人間関係の潤滑剤として機能して
 らしいことを知りました。
 また発表されたばかりの「海外投資」(『香港の挑戦』に収録)を読むと、
 中国人社会では、家庭でも職場でも親しい間柄にある人の間で
 「紅包」(ポチ袋)を渡す習慣があると教えられ、中国人社会の
 特質の一端を勉強することができました。
 その頃から比べたら、
 『中国人と日本人』(平成5年。平成8年中公文庫)とか
 『中国人の思想構造』(平成9年。平成12年中公文庫)とか
 また『騙しもまだまだ騙せる日本人』(平成10年)とか
 邱さんが中国および中国人の特質を論評した作品が
 ずいぶんふえました。
 時代は大きく変わってきていますね。
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