| 第2回邱さんの文章を読み、「金儲けの神様」のイメージが一変しました。
 私がはじめて邱さんの文章に接したのは、23年も前のことです。雑誌『実業之日本』の特集号に出ていたごく短い文章でした。
 今は、デフレの時代で不動産もすっかり下落していますが、
 私が邱さんの文章に接した頃は土地の値段が上がるばかりで、
 東京およびその周辺の土地は天を衝くばかりの高さでした。
 「こりゃ家を持つのはあきらめたほうがいいのじゃないか」と私は思っていました。
 そうした頃、『実業之日本』の特集雑誌をパラパラめくっていると
 「インフレへの鋭敏な対応を!」
 という文章に出会いました。
 この文章は
 「財産の方法のあれこれを考える前に、
 今がどんな時代かを認識することが先決である」
 という言葉から始まっていました。
 この言葉に引き込まれ、読み続けると
 「今はインフレの時代である。」
 「こういう時代にはコツコツお金をためているより、
 お金がある程度たまったところでお金を借りて
 不動産を手に入れた方がいい。」
 「不動産は定期的にお金が上がってくるような形のものがいい」
 と書いていました。
 紋切り型の記述ばかりが並ぶ中で、「これすべて考え方」という趣の文章は
 目の覚めるような鮮やかな印象を与えました。
 文章の主は誰かと思ってページを戻すと
 タイトルの下に「邱永漢」と書かれていました。
 私の頭の中にあった邱さんのイメージが一変してしまいました。
 私の頭にあった邱さんのイメージは
 「お金儲けの神様」であり
 「株の神様」でした。
 自分のようにお金に縁の薄い人間には
 縁遠い人だとばかり思っていました。
 しかし実際に邱さんの文章を読んでみると、
 時代のトレンドが明確に書かれ、
 それに添って有利に生きる処方箋が書かれています。
 こういう理知的で且つ実際的な話をする人は初めてだ、
 邱永漢という人はたいへんなユニークな人だという印象を深くしました。
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