第314回 (旧暦1月8日)
稲村ヶ崎のヨモギ
昨日は稲村ヶ崎のワカメの話をしましたから、
今日はそのついでに稲村ヶ崎のヨモギの話でも
書いておくことにしましょうか。
こう言えば、ほとんどの人は
「稲村ヶ崎とヨモギが何か関係があるのだろうか?」と
思われるでしょうが、実は、大アリで、
ここには葉も花も雪をかぶったように白いヨモギがあるのです。
いやいや、海辺だからといって、
決して潮をかぶったわけではなく、
全体に細やかな白い綿毛で覆われているために
雪をかぶったように見えるのですが、
それゆえに、その名をユキヨモギといいます。
ユキヨモギは、稲村ヶ崎のほか神奈川県の一部の海岸と
伊豆七島の三宅島のみに分布する
ヨモギ(キク科ヨモギ属)のなかまで、
この稲村ヶ崎が最初の発見地だったのです。
そのため、鎌倉の植物界ではシンボル的な存在とされ、
鎌倉自然保護教会の機関紙名にもこの名が使われてきました。
もっとも、自然保護などという風潮が敷衍(ふえん)する前は、
鎌倉の餅菓子屋のなかには
稲村ヶ崎のヨモギを摘んで草餅を作っていた店があり、
その草餅がなかなかの評判だったようですから、
やはり人の世は「花より団子」なのかもしれません。
さて、その稲村ヶ崎のユキヨモギですが、
近年では他のヨモギとの交雑が進み、
純粋のユキヨモギはほとんど見られなくなってしまったようです。
実をいうと、稲村ヶ崎一帯は、
古くから仙人のヨモギ畠のひとつであり、
年に何回かヨモギを摘みに出掛けるのですが、
たしかに、このあたりのヨモギは普通のヨモギと較べると
格段に色白の「ユキヨモギ系」のヨモギであることがわかります。
仙人は、この「ユキヨモギ系」のヨモギを
ヨモギ湯や草餅に利用していますが、
香りは普通のヨモギ
(Artemisia princeps Pamp.=カズザキヨモギ)と較べると
少し弱いような気がします。
ちなみに、ヨモギのなかまは世界中に約250種、
そのうち日本には約30種が分布し、
そのほとんどが食用・薬用になります。
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稲村ヶ崎のユキヨモギ系のヨモギ |
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