第302回 (旧暦12月21日)
巨木は多くても案外知名度の低い木
鎌倉から三浦半島にかけての自然植生は、
大局的にはシイ・カシ帯に属しますが、
局所的には「タブノキ−イノデ群落」「シラカシ群落」
「スダジイ−ヤブコウジ群落」「マサキ−トベラ群落」
などによって構成されています。
「タブノキ−イノデ群落」というのは、高木層をタブノキが占め、
林床草本ではイノデを中心とする常緑性シダ植物が有占する林で、
三浦半島一帯では、亜高木帯にヤブツバキやモチノキが、
低木層にはシロダモ、ネズミモチ、アオキ、
ヤツデなどが多く見られます。
そのため仙人は、その親玉であるタブノキともよしみが深く、
いろいろな形でオツキアイをしています。
タブノキというのは、東北地方以西の沿岸地に自生する
クスノキ科の常緑高木で、寺社の境内にも多く見られるほか、
国指定のものこそないものの、
県や市町村指定の天然記念物や保護樹となっている
巨樹老木がいくらもありますから、
その名称や姿かたちに心あたりがない人でも、
実際にはどこかで目にしていることが多いものです。
もっとも、地方によっては、
イヌグス、クスダモ、モチダモなどとも呼ばれているため、
もしかすると、それらの名で憶えている人も
あるかもしれませんし、織物や染色に趣味がある人なら、
伊豆諸島特産「黄八丈」の染料にする木、
といえば思いあたるのではないでしょうか。
タブノキの樹皮にはタンニンが含まれていて、
その煮汁で布や魚網、釣糸などを染めるのですが、
この釣糸はオヒルギで染めた「たんがら糸」とともに
丈夫な釣糸として江戸時代の釣り書にも紹介されていますから、
仙人も釣りに興じていた一時期は、
テグスをこれで染めて使ったものです。
一方、葉や枝にはオイゲノールなどよりなる精油が含まれていて、
けいれんを伴う筋肉痛のとき、
この乾燥粉末を水でこねて湿布する民間療法が知られていますが、
仙人は、もっぱら秋〜冬の薬湯として楽しんでいます。
また、夏に黒熟する果実は、そのまま食べることもできますし、
ジャムや果実酒に利用してもよろしい。
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タブノキの若芽 |
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