第299回 (旧暦12月18日)
花を愛で、根で癒される寒牡丹
いま鎌倉の鶴岡八幡宮では、
「寒牡丹(かんぼたん)」が見ごろです。
寒牡丹というのは、ボタンの園芸品種のひとつですが、
初夏と初冬に花を咲かせる二期咲きの珍しい品種で、
江戸時代の儒学者にして本草学者でもあった
貝原益軒(かいばらえきけん)も、その著『花譜』の中で
「冬牡丹あり珍し」と述べています。
ボタンの園芸栽培が盛んだった昭和の初めごろは
10種類を超えるカンボタンが流通していたそうですが、
今ではほとんど市場から姿を消してしまったようです。
鶴岡八幡宮のほか、関西では奈良県当麻町の石光寺が
寒牡丹の寺として知られていますから、
興味がある人はそのどちらかへ足を運べば見られます。
さて、その原種であるボタンは、
中国大陸西部原産のボタン科の落葉低木で、
5月ころ白または紅紫色をした径10〜17cmの大輪の花を咲かせます。
むかしから「立てば芍薬、座れば牡丹」と、
シャクヤクとともに美しい女性の比喩言葉に使われるほど
艶やかさに秀でますが、中国本草書の古典『本草綱目』では、
「あまねく花の中でも牡丹を第一、芍薬を第二とし、
牡丹を花王、芍薬を花相と呼ぶ」と書かれています。
それもあってか、日本では五摂家や大名寺院など
格式の高い家の紋章として多く用いられてきましたが、
その日本への渡来は定かでなく、
『本草和名』(918年)に登場する「ふかみぐさ」に
「牡丹」の字があてられているところから、
平安時代初期のことではないかと推定されます。
ところで、このボタンという植物は、花を愛でるだけでなく、
漢方では、これの根皮を乾燥させたものを
「牡丹皮(ぼたんぴ)」と呼んで、
消炎解熱、鎮痛、浄血、鎮痙などに用いますが、
とりわけ生理不順や子宮の炎症など婦人科疾患に多用され、
その代表的な処方として
「折衝飲(せっしょういん)」などがあります。
ただし、薬用に栽培するものは、
根を肥大させるために花の蕾を摘みとってしまいますから、
花を楽しむことはできません。
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寒ボタン |
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