第290回 (旧暦11月26日)
生薬のお手軽利用法
今日も「生薬」の話を続けましょう。
生薬に含まれる有効成分の正体は、昨日述べたように、
その原料植物が光合成によって蓄えた有機物ですが、
それぞれの有機物の性質によって、
われわれの身体に及ぼすはたらきは、
当然ながらさまざまな差異があります。
漢方や民間療法を通して何百種類もの植物が
生薬として利用してきたのもそのためですが、
そのことによって、われわれの身に振りかかる
多くの健康障害を取り除くことができるわけですから、
生薬の原料となる植物には
人間一同大いなる感謝の念を持たなければなりません。
さて、生薬を「クスリ」として利用するということは、
その生薬に含まれている有効成分を
利用するということになりますから、そのためには、
それぞれの生薬が持っている有効成分を
効率よく抽出する方法が必要になってきます。
漢方でも、民間療法でも、その用法を見ると、生薬を煎じ、
この煎じた液を服用することが多いのに気が付きますが、
実は、「煎じる」というのも有効成分を抽出する
すぐれた方法のひとつで、これを「熱水抽出」と呼びます。
そして、この熱水抽出には、煎じるという方法以外に
熱湯を注いで蒸らす方法もあり、緑茶や紅茶、
健康茶などの利用法がこれに該当することになります。
また、仙人お気に入りの薬湯も、煎じ液を浴槽に加えたり、
湯船に生薬植物を浮かべたりするわけですから、
これも熱水抽出法のひとつということになるでしょう。
ちなみに、生薬成分の成分抽出法としては、
他に浸透圧抽出法や蒸留法などもあり、
前者はアルコールや糖の浸透圧を利用する
果実酒や薬酒がこれにあたりますし、
後者の方法は主として精油成分の抽出に用いられ、
ハーブの世界で多用されています。
ということは、これらの方法を心得てさえいれば、
煎服、健康茶、薬湯、果実酒・薬酒…と、多様な方法で、
しかも手軽に生薬を健康利用することができる、
ということにほかなりません。
現代の日本社会は、自分自身の健康管理までも、
医者という名の他人に預けてしまっている傾向が見られますが、
実は、少し前の時代までは「自分の健康は自分で守る」という
人間本来の矜持が生きており、
どの家庭でも身近な生薬植物を利用して
家族の健康管理にあたってきましたから、
こうした抽出法なども親から子へと代々継承されていたのです。
聞くところによれば、最近は
昭和レトロの大ブームなんだそうですが、
どうせなら、オモチャや駄菓子だけを懐かしがるだけでなく、
昭和の半ばまで生きていたこうした知恵も
復活させてみてはどうでしょうか。
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