第287回 (旧暦11月23日)
八坂神社「オケラ参り」の効用
今年も残り半月となり、街には歳末ムードが漂い始めました。
そこで今日は、正月にちなんだ薬草を
ひとつ紹介しておくことにしましょう。
京都・祇園の八坂神社で、大晦日の夜から元日の早暁にかけて
「白朮参り(おけらまいり)」と呼ぶ行事が行われることは、
京都以外の人にもよく知られているはずです。
これは、神社の灯篭に焚かれたオケラ火を
吉祥縄(きっちょなわ)と呼ばれる縄の先に移しとって、
火が消えないように縄を振り回しながら家に持ち帰り、
この火を種火として元旦の雑煮を作るならわしで、
その年1年の無病息災を願うものです。
神前に捧げた「清火」を年の始まりの火種にする風習は、
奈良の大神(おおみわ)神社をはじめ
歴史の古い多くの神社で見られますが、八坂神社の場合には、
その清火にオケラの根茎を混じえるところに特徴があります。
オケラというのは、本州以南の山野に自生するキク科の多年草で、
春の新芽は「山でうまいはオケラにトトキ…」といわれるように
代表的な山菜のひとつとして知られていますが、
晩秋〜初冬の頃に掘り採って皮をはいで乾燥させた根茎を
「白朮(びょくじゅつ)」と呼び、
漢方では健胃整腸、利尿、強壮などに用いられています。
一方、中国から移入された
ホソバオケラ(佐渡オケラとも呼ぶ)の根茎を
そのまま乾燥させたものを「蒼朮(そうじゅつ)」と呼び、
こちらのほうは健胃、利尿とともに発汗や鎮静の作用もあり、
風邪や頭痛などにも広く用いられます。
また、蒼朮を燻した煙には蚊やりの効果があって
「蚊いぶし」として利用されたほか、
「邪気・悪気を去り、疫気を払う」とされ、
「魔除け」の効果があると信じられてきました。
もともと、日本産のオケラの白朮は、
中国産のオソバオケラの代用品として
用いられるようになったものですから、
おそらく八坂神社の「白朮火」は、その代用品の白朮と、
蒼朮の魔除け進行とが合体して生まれたものであったのでしょう。
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オケラの花 |
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