第286回 (旧暦11月22日)
ちょっと気になる銀座の菩提樹
昨日は「銀座のヤナギ」の話をしましたが、
銀座界隈の街路樹では、
もうひとつちょっと気になる樹木がありますので、
今日はそれを取り上げておくことにしましょう。
やはり先日のことですが、銀座へ出掛けた折り、
たしか五番街の1本北側の通りあたり一帯で
「リンデン」の木が植えられているのを見掛けました。
この「リンデン」というのは「リンデンバウム」のことで、
シューベルトの歌曲集『冬の旅』の第五曲としても有名な
「菩提樹(ぼだいじゅ)」のことです。
ボダイジュは中国大陸〜朝鮮半島原産の
シナノキ科の落葉高木ですが、
ヨーロッパでリンデン(linden)と呼ばれているものには、
同属のフユボダイジュとナツボダイジュ、
そして両者の雑種とされるセイヨウシナノキとがあり、
銀座に植えられている「リンデン」が
その3種のいずれであるかまでは、
まだ仙人も確認してはおりません。
ただ、いずれにしろ「リンデン」は、
ヨーロッパの人々にとってキリスト教以前から
信仰や神話の対象として精神文化に深く根を下ろした樹木であり、
今日まで街路樹や公園樹として広く親しまれていますから、
そのリンデンが東京・銀座に街路樹として植えられても、
別にオカシなことではないでしょう。
ところが、仙人は銀座でリンデンを見て、
ちょっと気になるといったのは、
実は、この樹は排気ガスに対してからきし弱く、
モータリゼーションの進展とともに
ヨーロッパでも衰退の一途を辿っているからです。
つまり、車の通行量が多い銀座の真ん中で、
そのリンデンが果たして生き延びられるのか、ということと、
これを植樹した人間はそのことを知っていたのだろうか、
ということが、ちょっと気になったというわけです。
ところで、ヨーロッパの民間療法では、
風邪やインフルエンザ、気管支炎などの特効薬として
このリンデンの花茶を古くから利用していますので、
銀座のそれがナツボダイジュであれフユボダイジュであれ、
来年まで元気であれば、
6〜7月のころ黄白色の花を着けることになるでしょうから、
リンデンの花茶に興味がある人は、
来年のその頃に銀座を訪ねてみるとよろしい。
なお、菩提樹と呼ばれる木には、もうひとつ、
釈迦がこの木の下で悟りを開いたとされる
インドボダイジュがありますが、
こちらのほうはクワ科の常緑高木で、
リンデンとは全くの別の植物です。
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