第285回 (旧暦11月21日)
銀座からヤナギの姿は消えたけれど……
つい先日、東京の銀座通り(中央通り)を歩いていて、
なんとなく街全体の雰囲気が
以前と少し変わったように感じました。
そう思って、まわりを見渡してみると、
つい最近まで歩道と車道を隔てて植えられていた
生垣状の低木が取り払われ、代わりに花が植えられていたのです。
あとで調べてみると、この模様替えは、
江戸幕府開府400年記念の事業の一環として
行われたものであることが判りましたが、
これによって、とうとう銀座通りから
樹木がすっかり姿を消してしまったことになります。
銀座通りの街路樹の歴史は、
明治7年(1874)にサクラと松が植えられたのが始まりですが、
なぜか両方とも育ちが良くなかったため、
10年後の明治17年にシダレヤナギに植え替えられたのだそうです。
これが有名な「銀座のヤナギ」の発祥で、
やがて歌謡曲にも歌われて
全国津々浦々まで知られるところとなったのでした。
シダレヤナギは、中国大陸原産の落葉高木ですが、
日本にも古い時代に移入され、
枝先を長く下垂させる特有の樹形が
日本人の心情によく合ったせいか、
早くから街路樹として植栽されていたようで、
すでに聖武天皇のころ平城京に
ヤナギとタチバナの街路樹が植えられていたほか、
桓武天皇によって移された平安京でも、
エンジュとともにこのシダレヤナギが
街路樹として使われています。
ちなみに、近年、日本で街路樹として多用されている樹種としては、
シダレヤナギのほか、イチョウ、スズカケノキ、アオギリ、
トチノキ、エンジュ、トウカエデ、ソメイヨシノ、プラタナス、
ケヤキなどが挙げられますが、
昭和52年(1977)の東京都内の調査では、
もっとも多いのがイチョウ、次いでプラタナス、トウカエデ、
そしてシダレヤナギの順になっていたようです。
また、シダレヤナギは、街路樹として植えられるだけでなく、
漢方では葉を「柳葉(りゅうよう)」、
枝を「柳枝(りゅうし)」、花を「柳花(りゅうか)」、
幹や根の皮コルク層を除いたものを
「柳白皮(りゅうはくひ)」と呼び、
柳葉は解毒、清熱、利尿などに、
柳花は止血(血便、血尿、吐血)に、
そして柳白皮は駆風、鎮痛、消炎などの薬として
用いられていますから、
ついでにこのことも憶えておくと役に立ちます。
ちなみに、ヨーロッパでは、ヤナギ類
(セイヨウシロヤナギ、ヤマネコヤナギ、
ハコヤナギ=ポプラなど)は
キニーネと双璧をなす解熱剤とされ、
風邪にはもっとも多用される民間薬になっています。
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