第281回 (旧暦11月17日)
冬芽や葉痕を観察してみませんか
いま鎌倉の山では、あちこちに樹皮がはがれて
枯れかけている大木がたくさん見られますが、
その大方はカラスザンショウの木で、
このような無残な姿になったのは、
ペットとして飼われていたのが逃げ出して野生化した
タイワンリスに齧られたからです。
カラスザンショウというのは、
本州以南の暖地に自生するミカン科の落葉高木で、
その実をカラスなどが好んでついばむところから、
この名で呼ばれるようになったと
『大和本草』(1708年)には書かれています。
幹全体に鋭いトゲがたくさんあり、
春の山菜採りの季節にはタラノキと間違えられることも多く、
オオタラ、オトコダラなどと呼ぶ地方もありますから、
「ああ、アレのことか……」と
思い当たりのある人もいるのではないでしょうか。
ただし、タラノキはウコギ科、こちらはミカン科で
イヌザンショウのなかまですから、
タラのつもりで樹皮を煎じても糖尿病には効きません。
その代わり、カラスザンショウには
精油やイソピンピネリンなどが含まれていて、
漢方では乾燥させた種子を「食茱萸(しょくしゅゆ)」と呼び、
咳止めや冷え性、健胃などに用いるほか、
民間では風邪やマラリアの熱に乾燥葉10〜15g(1日量)を
500ccの水で煎じ3回に分服したり、
神経痛、リウマチ、腰痛に葉の煮汁を加えて入浴する、
などの療法があります。
もっとも、これからの季節は両者とも葉を落とし、
余計に識別しにくくなりますが、
そういうときは冬芽や葉痕の違いで見分けることを
憶えておくとよろしい。
冬芽というのは、春の芽吹きに備えて冬の間に顔を出す小さな芽、
葉痕は脱落した葉柄の痕跡のことで、
いずれも樹木ごとに色や大きさ、姿かたちが異なりますから、
落葉期に野山へ出るときは、
この冬芽を観察しながら歩くことをおすすめします。
ちなみに、下の左の写真がカラスザンショウの冬芽で、
冬芽の下側にある円い顔のようなものが葉痕ですが、
右側写真のオニグルミの葉痕はサルの顔のようなかたちをしており、
樹木によってその姿がさまざまであることがよく判るはずです。
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カラスザンショウの冬芽 |
オミグルミの冬芽 |
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