第272回 (旧暦11月8日)
カラスの知恵に学ぶツワブキの利用法
いま海岸の崖地にはツワブキの黄色い花が咲き乱れています。
ツワブキは、太平洋側では福島県以西、
日本海側では石川県以西の、
ともに海岸部に自生するキク科の常緑多年草で、
花の少ない冬場に花期を迎えるところから、
玄関まわりの石組み周辺に好んで植えられる習慣があります。
葉がフキの葉に似ていて光沢があるために、
「つやブキ」と呼ばれたのが名の由来で、
漢字で「石蕗」と書かれるのは、
海辺の岩場を好んで群生するからでしょう。
一般には、春から夏にかけて葉柄を摘み採り、
水にさらしてアクを抜いてから皮をむいて食用にしますが、
綿毛を着けた若い葉柄は、季節を問わず、
しかもアク抜きをする手間もなくそのまま料理できるため、
数少ない冬場の食草として利用することをすすめます。
食べ方は、フキの場合とほぼ同じと考えてよく、
仙人のオススメとなれば、
やはりキャラブキということになるでしょうか。
キャラブキというのは、フキの葉柄をから炒りした後、
しょうゆや酒などを加え、
汁気がなくなるまで炒り煮するものですが、
フキの葉柄が中空であるのに対し、
ツワブキのそれは髄が詰まっていて味が染み込みやすいため、
こうした料理法にはフキよりもむしろ適しているのです。
また、漁師たちの間では、
「カラスは渚に打ち寄せられた死魚を食べて食あたりを起こすと、
ツワブキの葉をついばんで治す」
という巷説が語り継がれていますが、
実は、ツワブキの葉にはヘキセナールが含まれていて、
すぐれた抗菌作用を持っていることが明らかになっています。
そのため、魚の中毒や食あたり、下痢などのとき、
生葉の絞り汁を飲んだり、葉や根を煎じて服用したりするほか、
できもの、すり傷、切り傷、はれもの、打ち身、火傷などに
生葉をもんで貼りつけたり、もみ汁を塗布したりする民間療法が
広く行われてきました。
ちなみに、ツワブキに含まれるヘキセナールという成分は、
ドクダミに含まれるデカノイルアセトアルデヒドと
同等のはたらきがありますから、ドクダミのない季節には
これをドクダミの代用にしてもかまいません。
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ツワブキ |
ツワブキの煮物 |
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