第230回 (旧暦9月20日)
センダンは双葉より芳しからず
鎌倉の、鶴岡八幡宮に向かう一元鳥居のかたわらには
大きなセンダンの木が3本あり、
いまそのセンダンの木には丸い実がたわわに実っています。
センダンは、四国・九州の暖地に自生する
センダン科の落葉高木ですが、
丸い実を数珠(じゅず)に利用したところから
寺の境内に植えられるほか、
川岸や街路樹、庭木などにも植栽されています。
古命を「樗(アフチ)」といい、
初夏に咲く青紫色の可憐な5弁花は
古くから句歌の題材とされてきましたが、
「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」といわれる格言の
「せんだん」は本種のことではなく、
インド原産の白檀(ビャクダン)で、
ここにいうセンダンの若葉には芳香はありません。
ただし、センダンの樹液は染め物の触媒としてすぐれ、
この灰汁を用いると千段もの白布を染めることができるといわれ、
これが「センダン」の名前の由来とされています。
樹皮にはタンニンやクマリン系物質、
シトステロール配糖体などを、
果実にはタンニン、脂肪油、ブドウ糖などを含み、
漢方では、樹皮を「苦楝皮(くれんぴ)」と呼んで駆虫薬に、
果実を「苦楝子(くれんし)」と呼んで、
腹痛、疝痛、整腸などに用いられてきました。
また、マラリア熱に苦楝皮6〜10g(1日量)を400ccの水で煎じ、
3回に分服すると効果があるとされていますから、
地球温暖化でマラリアが目前に迫っている状況を考えると、
この療法が近い将来思わぬ役に立つことになるかもしれません。
一方、センダンが自生する四国・九州地方では、
しもやけ、ひび、あかぎれなどのとき、
黄熟した実の果肉を塗布したり、
口内炎に樹皮や根皮の煎じ汁でうがいをする、
などの民間療法があるほか、
農作物や園芸花木の殺虫自然農薬として、
茎や葉を煎じた液を利用したりしています。
もう少し寒くなって葉が落ちると、
しなやかな枝先から径1cmほどの円い実が
下向きにたくさんぶら下がっている姿が見られるようになるため、
ちょっと気を付けて周囲の樹木を観察してみるとヨロシイ。
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センダンの実 |
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