第224回 (旧暦9月3日)
食毒が背中合わせのヒガンバナ
今年はまだ夏の花が咲き残っていると昨日書いたばかりですが、
それとは逆に、いつもは彼岸の入りを待つように咲くヒガンバナが
例年より1週間以上も早くから咲き始めてしまいました。
やはり動植物のサイクルは
いつもの年より少しズレているようです。
さて、このヒガンバナは、中国・揚子江沿岸原産の
ヒガンバナ科の多年草で、古い時代日本に帰化し、
田の畦や川辺の土手、墓場など
湿り気のある場所を好んで野生化しています。
釈迦伝説に由来する
マンジュシャゲ(曼珠沙花)という別名のほか、
ジゴクバナ(地獄花)、シビトバナ(死人花)などと
忌まわしい名前で呼ばれるのは、
秋の彼岸に墓地を妖しく飾るせいかもしれません。
また、この花のことをシタマガリ(舌曲がり)と
呼ぶ地方がありますが、これは、球根を口にすると
舌が硬直してしまうほどのヒリヒリした灼熱感があるからです。
それというのも、ヒガンバナの球根にはリコリンという
有毒アルカロイドがが含まれていて、
軽ければ下痢や嘔吐ですみますが、
ヘタをすれば呼吸麻痺や心臓麻痺を起こして
命を落とすことになりかねませんから、
間違ってもこの球根を口にするべきではありません。
ちなみに、リコリンによる最小致死量は、
体重10kgに対して静脈注射では0.3gとされるため、
体重60kgの大人でもわずか1.8gで死に到ることになるのです。
ところが、この猛毒のヒガンバナの球根には
多量のデンプンが含まれていますから、
飢饉の折には、これを搗きくだいて水にさらし、
残ったデンプンを団子などにして
飢えをしのいだ歴史があったのでした。
飢饉に備える代用作物のことを救荒作物と呼び、
むかしは田の畦などにそれを植える習慣があったそうですが、
今でもヒガンバナが田の畦に多く見られるのは、
おそらく、かつて救荒作物として植えられたものが
代を重ねて生き続けているのではないでしょうか。
なお、ヒガンバナの球根をすりおろし、
ハレモノや肩こりなどにこれで湿布する民間療法がありますが、
幼児がいる場合には間違って口にしないよう
万全の注意を払う必要があります。
|
ヒガンバナ |
|