第217回 (旧暦8月25日)
尿もれパンツを穿きたくない人は……
仙人が散歩の途次にときどき訪れる神社には
大きなカヤの木があって、毎年、いま頃の季節になると、
樹下の玉砂利の上にその果実を落とし始めます。
カヤは、10〜25mくらいの高さになる
カヤノキ科の常緑針葉高木で、本州以南の山地に自生するほか、
古くから寺や神社の境内に植栽されてきた歴史があります。
カヤの実には多量の脂肪油が含まれていて、
むかしはこの実を絞って油をとっていましたから、
神社の境内にカヤが多く見られるのは、
おそらく燈明(とうみょう)の油をとるために植えられた
名残ではないでしょうか。
ちなみに、平安時代初期の朝廷の儀式や制度などを著した
『延喜式』(927年)には、当時カヤの実(榧子)が
朝廷への貢物とされており、これから絞った油が
食用や整髪用とともに、灯火用としても用いられていたことが
記されていますので、カヤの実から油をとる習慣は
それよりずっと前から行われていたと考えて
さしつかえないはずです。
また、萱の油に関しては、
徳川家康がカヤ油で揚げたテンプラにあたったのが元で死んだ、
という巷説がありますが、カヤ油はリノール酸が多く、
血中コレステロールを排泄する働きがあるため、
家康の場合には、油にあたったというよりも、
この優れた植物油すらもて余すほど
彼の体力がすでに衰弱していたと考える方が
妥当なのではないでしょうか。
ところで、このカヤの実は、
空炒りや塩炒りにして食べることができますが、
脂肪油以外に、油酸、リノール酸などのグリセリドを含み、
漢方では天日乾燥した種子を「榧子(ひじつ)」と呼んで
十二指腸虫の駆除薬とするほか、
民間でも夜尿症や頻尿に種子を焼いて(空炒りでよい)食べる
療法が伝えられていますから、尿もれパンツの心配がある人は、
今からセッセとカヤの実を食べることです。
仙人も、ときどき塩炒りしたやつを
酒のツマミにして楽しんでいますが、
なかなかオツな味がするものですゾ。
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カヤの実 |
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